26.憂鬱なデート
『次の日曜開いてるよな。映画見にいくぞ』
オウガがファミレスに現れた日の夜。
高橋くんにお詫びのメールを入れれば、そんな返信がきた。
初めてのデートらしいデートだ。
本来なら喜んでうきうきとするべきなのに、お誘いというより、呼び出しのメールみたいだということが気になった。
こちらの都合を、高橋くんはいつも聞いてくれない。
オウガにファミレスから連れ出された後、私は高橋くんのところへ戻った。
高橋くんは注文したものを全部食べきっていて、私が帰ってくるのを待っていたかのように立ち上がると「用事終わった?」と聞いてきた。
仮にも彼女が、知らない男にいきなり外へ連れ出されたのに……動揺した様子もなく、追ってくるでもなく。
のんきに、ハンバーグ定食を食べていたようだ。
そのまま私がお会計をして、迷惑かけてごめんねと謝って。
別にいいよと許してくれたのはよかったけど……私に対して関心がないのかなと、勘ぐってしまいそうになる。
「はぁ……」
携帯電話を放り投げて、ベッドにうつぶせた。
日曜日、高橋くんに会うのかと思えば……ずんと気分が暗くなる。
もう疲れたなぁ。別れたいなぁ……。
けど、私から付き合ってくれと言い出した形になっているから、こちらから別れましょうとは言いだしづらい。
いや、こんな気持ちじゃダメだよね。
折角デートに誘ってくれたんだし、まだお互いのことをよく知らないんだから。
メールの文面から気持ちを読み取るのって、難しいし。
高橋くんも、実はドキドキしながらこの文章を作ってくれたかもしれない。
誘って断られるのが嫌で……こちらの都合をわざと聞かなかったのかもしれない。
もっと高橋くんのことを知れば、きっと好きになれるはず。
そこまで考えて、好きになるために付き合うの?とよくわからなくなる。
難しいことを考えるのに、私は向いていない。
気分を切り替えることにして、デートの日に着ていく服を考えることにした。
私の持っている服はズボンが多くて、動きやすさ重視。
女の子らしくてかわいい服は少なかった。
初デートなんだからと自分で気持ちを盛り上げて、明日服を買いに行こうと決める。
恋をすると相手のことばかり考えるものだ。
街でよく流れるラブソングでは、そう歌われていることが多い。
でも……まさか映画代も私が払うのかなとか、きっと見る映画も高橋くんが決めるんだろうなとか。
確かに高橋くんのことばかり考えているけど、これ何かが違うような……?
高橋くんの考えれば考えるほどに、テンションが下がるばかりというか。
どうにも億劫に思ってしまうこの感情を……世間では恋というんだろうか。
だとしたら、ちっとも楽しくないし、面倒なだけだ。
乙女ゲームをしてるときのほうが、ずっとドキドキする。
ぐるぐると考えこんでいたら、いつの間にか私は寝てしまっていた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「メイコ、ちょっといいか」
次の日の放課後。
オウガによって屋上に呼び出された。
何を言われるのかな。
少し身構えながら、後をついていく。
「オウガ、話しって何?」
屋上についても、オウガは険しい顔でずっと黙り込んでいる。
「……メイコは、昨日の男のことが好きなのか?」
問いかけてようやく、オウガは口を開いた。
やっぱり話しは、そのことだったらしい。
「好きかって言われると微妙なところだけど……お付き合いはしてるよ」
オウガに対して嘘をつきたくなくて、素直に応える。
その眉間に、特大の皺が寄った。
「どうして好きでもないやつと付き合ってる。しかもいきなり、オレに……なんの相談もなく」
「別に……オウガに報告する義務もないでしょ?」
「……っ!」
突き放したつもりじゃなかったけれど、オウガには冷たく思えたのかもしれない。
傷ついた顔をしていた。
こんなことを言いたいわけじゃなかった。
いつもどおりに笑い合って、仲良くしたいのに……どうして高橋くんのことで、オウガとギスギスしなくてはならないのか。
普段どおりにしたいのに、高橋くんがいるからそれができない。
こんな友達がいのない自分が、心底嫌になる。
大切な友達にこんな顔をさせてまで……高橋くんと付き合う意味がわからない。
オウガと高橋くん、どちらが大事かと言われれば、断然オウガだ。
色んなこと我慢して、高橋くんに合わせて。
大切な友達を傷つけて遠ざけてまで、高橋くんと付き合う意味はない。
俯いてしまったオウガを見て、ようやく目が覚めた。
――高橋くんには悪いけれど、別れよう。
友達といるほうが楽しいと感じてしまう私に、彼氏はまだ早かったんだ。
そう決めてしまえば、今までのモヤモヤが嘘のようにすっきりと晴れた。
高橋くんと別れて、オウガに今までの態度を謝って。
仲直りして……いつもどおりに戻ればいい。
オウガと気まずいままなんて、絶対に嫌だ。
決意を固めたところで、うつむいていたオウガが顔を上げる。
強いまなざしが、私をまっすぐ貫いていた。




