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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
26/43

26.憂鬱なデート

『次の日曜開いてるよな。映画見にいくぞ』

 オウガがファミレスに現れた日の夜。

 高橋くんにお詫びのメールを入れれば、そんな返信がきた。


 初めてのデートらしいデートだ。

 本来なら喜んでうきうきとするべきなのに、お誘いというより、呼び出しのメールみたいだということが気になった。

 こちらの都合を、高橋くんはいつも聞いてくれない。


 オウガにファミレスから連れ出された後、私は高橋くんのところへ戻った。

 高橋くんは注文したものを全部食べきっていて、私が帰ってくるのを待っていたかのように立ち上がると「用事終わった?」と聞いてきた。


 仮にも彼女が、知らない男にいきなり外へ連れ出されたのに……動揺した様子もなく、追ってくるでもなく。

 のんきに、ハンバーグ定食を食べていたようだ。


 そのまま私がお会計をして、迷惑かけてごめんねと謝って。

 別にいいよと許してくれたのはよかったけど……私に対して関心がないのかなと、勘ぐってしまいそうになる。


「はぁ……」

 携帯電話を放り投げて、ベッドにうつぶせた。

 日曜日、高橋くんに会うのかと思えば……ずんと気分が暗くなる。


 もう疲れたなぁ。別れたいなぁ……。

 けど、私から付き合ってくれと言い出した形になっているから、こちらから別れましょうとは言いだしづらい。


 いや、こんな気持ちじゃダメだよね。

 折角デートに誘ってくれたんだし、まだお互いのことをよく知らないんだから。


 メールの文面から気持ちを読み取るのって、難しいし。

 高橋くんも、実はドキドキしながらこの文章を作ってくれたかもしれない。

 誘って断られるのが嫌で……こちらの都合をわざと聞かなかったのかもしれない。


 もっと高橋くんのことを知れば、きっと好きになれるはず。

 そこまで考えて、好きになるために付き合うの?とよくわからなくなる。

 難しいことを考えるのに、私は向いていない。


 気分を切り替えることにして、デートの日に着ていく服を考えることにした。

 私の持っている服はズボンが多くて、動きやすさ重視。

 女の子らしくてかわいい服は少なかった。

 初デートなんだからと自分で気持ちを盛り上げて、明日服を買いに行こうと決める。


 恋をすると相手のことばかり考えるものだ。

 街でよく流れるラブソングでは、そう歌われていることが多い。


 でも……まさか映画代も私が払うのかなとか、きっと見る映画も高橋くんが決めるんだろうなとか。

 確かに高橋くんのことばかり考えているけど、これ何かが違うような……?


 高橋くんの考えれば考えるほどに、テンションが下がるばかりというか。

 どうにも億劫に思ってしまうこの感情を……世間では恋というんだろうか。


 だとしたら、ちっとも楽しくないし、面倒なだけだ。

 乙女ゲームをしてるときのほうが、ずっとドキドキする。

 ぐるぐると考えこんでいたら、いつの間にか私は寝てしまっていた。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


「メイコ、ちょっといいか」

 次の日の放課後。

 オウガによって屋上に呼び出された。


 何を言われるのかな。

 少し身構えながら、後をついていく。


「オウガ、話しって何?」

 屋上についても、オウガは険しい顔でずっと黙り込んでいる。


「……メイコは、昨日の男のことが好きなのか?」

 問いかけてようやく、オウガは口を開いた。

 やっぱり話しは、そのことだったらしい。


「好きかって言われると微妙なところだけど……お付き合いはしてるよ」

 オウガに対して嘘をつきたくなくて、素直に応える。

 その眉間に、特大の皺が寄った。


「どうして好きでもないやつと付き合ってる。しかもいきなり、オレに……なんの相談もなく」

「別に……オウガに報告する義務もないでしょ?」

「……っ!」

 突き放したつもりじゃなかったけれど、オウガには冷たく思えたのかもしれない。

 傷ついた顔をしていた。


 こんなことを言いたいわけじゃなかった。

 いつもどおりに笑い合って、仲良くしたいのに……どうして高橋くんのことで、オウガとギスギスしなくてはならないのか。

 普段どおりにしたいのに、高橋くんがいるからそれができない。


 こんな友達がいのない自分が、心底嫌になる。

 大切な友達にこんな顔をさせてまで……高橋くんと付き合う意味がわからない。

 オウガと高橋くん、どちらが大事かと言われれば、断然オウガだ。


 色んなこと我慢して、高橋くんに合わせて。

 大切な友達を傷つけて遠ざけてまで、高橋くんと付き合う意味はない。

 俯いてしまったオウガを見て、ようやく目が覚めた。


 ――高橋くんには悪いけれど、別れよう。

 友達といるほうが楽しいと感じてしまう私に、彼氏はまだ早かったんだ。

 そう決めてしまえば、今までのモヤモヤが嘘のようにすっきりと晴れた。


 高橋くんと別れて、オウガに今までの態度を謝って。

 仲直りして……いつもどおりに戻ればいい。

 オウガと気まずいままなんて、絶対に嫌だ。


 決意を固めたところで、うつむいていたオウガが顔を上げる。

 強いまなざしが、私をまっすぐ貫いていた。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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