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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
25/43

25.彼氏と友達と

 あれから、高橋くんに呼び出されることが増えた。

「そっちの高校は、部活が盛んだって聞いたんですけど、高橋くんは何かやってるんですか?」

「やってたら放課後、こんなところで飯食ってねーよ」

「そうですよね……はは……」

 会話が続かない以前に、一緒にいてストレスが溜まる。

 こっちは高橋くんのことを知ろうと努力しているのに、高橋くんにはその気がなさそうだ。


 ……オウガと夕食食べてるほうがよっぽど楽しいなぁ。

 失礼だけれど、そんなことを思ってしまう。


 高橋くんと同じように、オウガも基本的には無表情だけど、美味しいって言ってくれるし。

 それに高橋くんみたいに、音を立てて行儀悪く食べたりはしない……。

 そこまで考えて、止める。


 彼氏といるのにオウガのことばかり考えて、しかも比べるなんて失礼だ。

 そう思うのに、頭に思い浮かぶのはオウガのことばかりだった。


 ……あれから、一切口をきいてないんだよね。

 昼ご飯の時間も、オウガは私を避けるように隣のクラスへ行ってしまう。

 たぶん、大地と一緒にお昼を食べてるんだろう。

 オウガと喧嘩してまで、こんなところで何やってるのかな……。


「はぁ……」

 思わず溜息を吐けば、高橋くんと目があった。

 しまったと思えば、どうやら目があったと思ったのは気のせいで、高橋くんの視線は私の後方に向かっている。

 振り返ってみれば、そこにオウガがいた。


「……帰るぞ」

「えっ!? ちょっとオウガ!?」

 オウガに腕を引かれ、店を出る。

 少し先の路地で、ようやくその腕を振り払った。


「いきなり何するの! 私、食事中だったんだけど!」

「あれは誰だ。なんで……こなかった。ずっと待ってたのに」

 叫べば、オウガが苦しさを吐き出すような声で言う。


「一体なんのこと?」

「……っ、それがメイコの……答えなんだな……」

 オウガは今にも泣きそうに見えた。

 話しが繋がらなくて、頭が混乱する。


「……わかった。もう、話しかけたりはしない。悪かった。じゃあな」

「ちょ、ちょっと待ってよオウガ!」

 足早に去っていこうとするオウガの腕を、ガシリと両手で掴んだ。


「離せ」

「やだ! 待つって何のこと!? 今日、オウガと約束はしてないよね!?」

 このまま手を離せば、オウガと仲直りができない気がして、しがみつく。


「今日の放課後、屋上で待ってるって……メールしただろ。返事はこなかったけどな」

 オウガが吐き捨てるように口にする。

 昨日うっかり携帯電話の充電を怠ってしまい、お昼には電源が切れてしまっていた。

 どうやら、メールを見すごしてしまったみたいだ。


「メイコは、もうオレと関わりたくないんだと……サキから聞いた。けど今更言えなくて……避けてたんだろ?」

 オウガは苦しそうな顔をしていた。


「嫌われることには……慣れてる。メイコがそうしたいっていうなら、仕方ないと思う。けど、そういうことなら、ちゃんと……面と向かって言ってほしかった」

 痛みに耐えるように、オウガがゆっくり言葉を吐き出す。

 拳をにぎりしめているその姿に、傷つけてしまったんだと気づいた。


「それ全部誤解だから! オウガのこと嫌になったとか、そんなのサキが適当に言ってるだけ! 携帯の電源が切れて、メールを見てなかったの!」

 彼氏の出来た私に、オウガがちょっかいを出さないよう、サキが手を回したんだろう。

 何でそんな事をするかなと、サキに対する怒りのようなものが湧いてくる。

 サキはいつだって、ちょっぴり強引だ。


「私ね、彼氏ができたの。だから、もうオウガの家に行ったり、二人っきりで遊ぶのはよくないなって話しになって……それで避けてたの。理由を説明しなきゃいけなかったのに、言い出せなくてごめんなさい!」

「……彼氏?」

 今までの罪悪感もあって勢いよく謝れば、オウガは目を見開いて固まる。


「うん、彼氏。サキに紹介してもらった人で、高橋くんっていうんだけど……オウガとカレーライスを食べる予定だった日に知り合ったの。それで、付き合おうって話しになって……」

「へぇ……?」


 長い沈黙の後、そう口にしたオウガは、びっくりするほどに無表情だった。

 ぞくりと背筋に冷たいものが走る。

 オウガの瞳に、鋭い光が宿った気がした。


「つまりメイコは、オレとの約束をすっぽかして、あいつと会ってたわけだな?」

「それは……」

 否定したかったけれど、オウガの言うとおりだ。


 何も言えずにいたら、強く手首をにぎられて、建物の壁に体を押しつけられた。

 いつもなんて比べものにならないほど怖い顔を、オウガはしていた。


「オレのほうがずっと……メイコのことを知ってる。あんな奴に、メイコの何がわかるっていうんだ」

 ぎり、とにぎられた手首に力がこもる。

 痛くて思わず顔をしかめれば、はっとしてオウガが手を離す。


「……悪かった」

 オウガは、赤い痕ができた私の手首を見て、自分のことのように痛そうな顔をした。

 それから何も言わずに立ち去ってしまう。


 彼氏ができたことを報告できて、すっきりしたはずなのに。

 先ほどのオウガの顔を思い出せば、胸の奥がズキズキと痛んだ。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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