20.とうとう大きな差をつけられました
「オウガはさ、どうして子供が苦手なの? 昔に何かあった?」
聞かないほうがいいかなと思いながらも、やっぱり気になって帰り道に尋ねてみる。
オウガは夕焼けの空を見上げ、それからしばらく黙っていた。
「……小さいころのオレは、あまり力加減が上手くいかなくて……同級生の奴らや弟を怪我させることが多かったんだ。子供を見ると、そのときのことを思い出して、また傷つけそうで怖い」
あまり近寄りたくないと、オウガは溜息を吐いた。
「でも、それ子供のときのことでしょ。今のオウガは大丈夫だよ」
「……わかってはいるんだがな。苦手なものは苦手だ。同じような理由で、小動物も苦手だ」
トラウマってやつなんだろう。
オウガの表情は暗かった。
「大丈夫だよ、オウガ。オウガは最初の日に、悪い大人から私を助けてくれたじゃない」
「それと子供が苦手なのと、どう関係あるんだ」
「最初私のこと、オウガは子供だと思ってたでしょ? 苦手なのに助けてくれた」
あんなの気まぐれだと、オウガは吐き捨てる。
「けど、オウガが助けてくれたから、私は助かったよ。大丈夫だよオウガ。昔みたいにはならないって、私が保証する!」
何の根拠もないし、私が保証したところで解決にはなってない。
それでも、胸を張って言い切れば……オウガはきょとんとした顔をして、それから思わずというように噴き出す。
「メイコがそういうと、そんな気がしてくるな」
「でしょ? だから、身構えなくて大丈夫!」
ようやくオウガが笑ってくれて、よかったと思う。
暗い顔はあまりみたいものじゃない。
「あとそれとね、オウガ。林太郎が千五百歳って言ってた件なんだけど。あれ、アニメの設定をぱくってるだけで、見た目も中身も小学生だからね?」
「アニメ……? ときどきメイコが見せてくれる、テレビの中の動く絵のことだよな?」
オウガが訝しげな顔になる。
日本の勉強ということで、私はオウガにいろんなアニメも見せていた。
アニメなら子供にもわかりやすくできているから、外人のオウガでもわかりやすいかなと思ってのことだ。
観てもらったほうが早そうだ。
そう判断し、林太郎が大好きな中二病アニメのDVDを全巻、オウガに貸した。
次の日。オウガは徹夜したのか目の下にクマがあった。
「あいつの言ってたことは、全部アニメの中のことだったんだな……」
「やっぱり……本気で林太郎の話し信じてたんだ?」
オウガは頭が痛いというような顔をしていた。
「林太郎に悪気はなかったと思うし、怒らないでよ? 林太郎のほうもまさかオウガが本気で乗っかってくれてるなんて、思ってないだろうし」
「……それはどうだろうな」
はぁ、と溜息を吐くオウガは疲れ切った様子だった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
保育園での職業体験で、オウガは緊張した様子だったけれど頑張っていた。
体験の時間が終わった後、だから大丈夫だって言ったでしょと言えば、そうだなと答えてくれた。
そんなふうにすごしていたら、あっという間に秋がきて。
そして、事件が起こった。
「オウガ……これ、どういうことなの?」
「どういうことも何も、日頃の努力の結果だな」
オウガの手元にある紙を覗き込んで、目を疑う。
そこには二学期末のテストの結果が書かれていた。
「学年で……三十番? クラスで五位って、オウガが!?」
「やっぱり現代文や古文が苦手だな。漢字も多いし、書いたやつが何を考えて書いてるかなんて、読む奴によって違うとらえ方になると思うんだが」
驚く私に対して、オウガは冷静に分析をしている。
私なんて百番以内に入るどころか、下から数えたほうが早いくらいなのに!!
「メイコは……悪い点だな。テスト前にしか勉強しないからだ」
前まではオウガを教えるため、一緒に勉強していた私だけれど、最近ではさぼりがちだった。
私が教えなくてもオウガは一人で勉強する。
なので、オウガが勉強している間、その部屋で持ち込んだマンガを読んだり、大きなテレビで好きな番組を見たりして有意義にすごしていた。
「くっ……悔しい……」
「そう思うなら、今日から一緒に勉強な。ちゃんと教えてやるから」
「それが余計に悔しい……!!」
オウガはやれやれといった様子だ。
私がその席次なら、飛び上がるほど喜んで自慢して回るというのに、さっさとポケットに席次表をしまってしまった。




