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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
19/43

19.苦手なもの

 オウガは伊達眼鏡を気に入ってくれたみたいで、授業中や制服で外に出かけるときはかけるようになった。

「この眼鏡をかけるようになってから、絡まれる回数が減ったような気がする」

「眼鏡は頭がよく見えるアイテムだからね。それをかけるだけで、真面目に見えるから不思議だよね」


 伊達眼鏡の成果に、オウガは驚いている様子だ。

 オウガの鋭すぎる眼光は、目論み通り少し緩和できているようだ。

 まぁ顔つきが怖いというのは、残念ながら変えようがないけれど。


「雑談はいいから。どうすんの、職業体験。場所が決まらないと部活にも行けないんだけど」

「うーん……特に行きたいところもないんだよね」

 現在は放課後。

 サキにツッコまれて、頭を悩ませる。


 もうすぐ職業体験の授業があるのだけれど、私達のグループはどこへ行くかまだ決まってなかった。

「オレはどこでもいい。まかせた」

 オウガもオウガで投げやりだ。

 他のグループは、すでに体験先にアポイントを取っていて、何も決めていないのは私達のグループくらいだった。


「メイコはさ、将来どうするつもり?」

「私はこのまま就職するつもりだよ。公務員……もいいけど、あまり合いそうにないから、適当な会社に就職するの。それで相手見つけて、結婚して……子供産んでって感じかな」

 サキに尋ねられて、ふわっとしたビジョンを口にする。


 将来ケーキ屋になりたいとか、スチュワーデスになりたいとか。

 そんな夢は一切持ち合わせてなくて、私はちょっぴり現実的だった。


「オウガは?」

「未来のことなんて、考えてない」

 サキの問いかけに、オウガは興味なさそうに答える。


「あんたたち二人は、本当もうアレよね。夢や希望ってやつが足りてないわ」

「そういうお前はどうなんだよ」

 サキが肩をすくめれば、オウガがむっとした顔をする。


「よし、ここは保育園にしましょう。あんたたちに必要なのは、子供のような心だわ。決定!」

 オウガの質問には答えず、サキが強引にまとめて携帯で検索しはじめる。


「ちょっと待て! オレは子供が苦手だ!」

「どうでもいいってことは、あたしが決めていいってことでしょ。それとも行きたい場所があるの?」

 オウガが叫べば、文句があるなら代わりの案を出せとばかりに、サキが睨む。

「特にないが……だが、子供は……」

 黙ってしまったオウガは、かなり困った顔をしていた。


「オウガ、子供苦手だったの? でも、林太郎は平気だよね?」

「あいつの見た目は確かに子供だが、中身はそうじゃないからな……千五百歳だと本人は言っていた」

 それは林太郎が自分で作った設定であって、本来の林太郎は見た目も中身も子供そのものだ。

 まさかとは思うけれど、オウガってもしかして……林太郎に合わせてるわけじゃなくて、本気であの言動を信じちゃってるんだろうか。

 そんな疑惑が頭に浮かぶ。


「子供は……怪我しやすいし、すぐ倒れるだろ。弱いし、すぐ死ぬ」

「いや、さすがにそんなにか弱くないからね? 保育園生だから、元気いっぱいだと思うよ?」

 呟いたオウガにツッコめば、弱ったように眉を寄せた。

 どうやら本気で苦手らしい。


「サキ、オウガが嫌がってるから、別の場所にしよう?」

「ん? 何メイコ。今電話中だから、ちょっと待ってね」

 声をかけたときにはすでに遅く、サキときたら電話をかけてしまっていた。

 行動力があるにもほどがある。

 そして、しっかりと訪問の約束をとりつけてしまった。


「これで帰れるわね。いやーいい仕事したわ、あたし」

「……」

 伸びをするサキに、オウガが抗議するような視線を向けていた。

「あんたが思ってるほどに、子供はヤワじゃないよオウガ。傷つけてしまうかもしれないって、怖がる必要はない」

 不安を見透かして、理解しているかのような口調でサキが言う。

 オウガが目を見開き、サキはそれを見て笑った。


「大人は厄介だよね。過去に囚われて、未来に怯える。積み重ねた今の先に、ただ未来があるだけなのに。欲しいものを望んで、子供みたいに手を伸ばせば、もしかしたら届くかもしれないってことを忘れてしまうんだ」


 サキの黒い瞳が、じっとオウガを見ていた。

 大人びたというよりも、まるで全てを知っている賢者のごとき雰囲気で、サキはそこに立っていた。

 目をそらせずにいたら、フッといつもの悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「まぁ、もう決まったことだし諦めな! それじゃ、職業体験は保育園で! あたし部活に行ってくるね!」

 私達の肩を、サキが強く叩く。


 そこにいるのはもういつものサキだ。

 私とオウガを残して、元気いっぱいに教室を出ていった。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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