18.プレゼントは身につけるもので
私達は無事に二年生に進級した。
今年もまた、オウガやサキと同じクラスだ。
二年生にあがったのをきっかけに、私は旧姓の百瀬から朝倉に変更し、大地と義理の兄妹だと公表した。
そっちのほうが、女子の面倒な恨みを買わないだろうという考えからだ。
あの大地と一つ屋根の下ということで、私に敵意を向けてくる女子が出てくるかもしれない。
そう、身構えもしたけれど、心配はいらなさそうだった。
オウガの脅しがばっちり効いているのと……私がこの学校を裏で仕切っている、番長だという噂が流れてしまったためだ。
本当……なんでこんなことになったんだろうね?
まぁ、原因はどう考えてもオウガなんだけどね!
上級生の不良を倒し、他校の生徒までぶちのめしたオウガが、私にだけ頭があがらない。
そのため、私がこの学校を実際には仕切っている……そんな噂が流れ始めたのだ。
うん、本当……どうしてこうなったんだろう。
校内で不良の子達に会うと、道を譲られるし。
女の子達の一部は、私を遠巻きにしているのがわかってしまう。
あだ名はすっかり裏番だった。
まぁ、それはもう諦めているのだけれども。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「さて、問題です。今の季節は何でしょう?」
朝、通学路であったオウガに、おはようの挨拶もそこそこに問題を出す。
「夏だな。メイコの国には四季がある」
簡単な問題だというように、オウガは答えた。
そう、今は七月。
今日の午前中の授業が終われば、明日から夏休みだ。
オウガと出会って、もうすぐ一年が経とうとしていた。
「そうです。夏です。それで、オウガが首に巻いているそれは何でしょうか?」
「メイコからもらったマフラーだ。どうしてそんな当たり前のことを聞くんだ?」
気の早い蝉が鳴く中、偶然登校時間が被った私とオウガは、通学路を歩いていた。
すでに冬服と夏服の切り替え時期に入っているというのに、オウガの首にはマフラーが巻かれている。
「あのね、オウガ! 夏にどうしてマフラーなんか巻いてるの! いい加減外しなさい!」
「気に入ったんだからいいだろ?」
「よくない! 暑苦しいよ!!」
オウガはどうやら、冬に私があげたマフラーをすっかり気に入ったようだった。
それはいいのだけれど、すでに季節は春を通り越して、夏だというのに巻くのはいかがなものだろうか。
やっぱり暑いからか汗をかくため、マフラーは毎日洗濯しているらしく、だいぶ色あせてしまっていた。
「そのマフラーのどこが気に入ったの? どこにでもある普通のマフラーだよ?」
「それはそうかもしれないが……メイコがくれたものだからな」
呆れながら言えば、オウガがボソボソとそんなことを言う。
私からプレゼントされたのが嬉しくて、いつも巻いてきていたらしい。
……ときおりオウガって、結構かわいいこと言うんだよね。
そういうことしそうにない顔をしてるくせに、そのギャップのせいか余計にくる。
「オウガ、誕生日はいつ?」
「もう過ぎた」
「なら、今日でちょうどオウガと出会って一年だし、マフラーの代わりになるもの買ってあげる」
「買ってもらう理由がない」
いい案だと思ったのに、オウガはきっぱりとそんなことを言う。
「あのね、オウガ。友達同士は……誕生日に贈り物をしあうものなのよ」
「そうなのか……?」
適当な私の言葉に、オウガは知らなかったと驚いている。
わりとこういうところに素直なオウガは、私の言うことを鵜呑みにしてくれた。
マフラーの代わりに何がほしいかと聞けば、身につけるものがほしいとオウガは言った。
学校帰りにデパートに寄る。
オウガにプレゼントと考えて、私が思いついたのは伊達眼鏡だった。
「オウガ、このサングラスかけてみて」
「こうか」
「凄いよオウガ、よく似合ってる! スナイパーとかヤのつく自由業の人みたい! 似合いすぎて怖いね! これにしちゃう?」
「……別にいいが、これかけたままずっとメイコの隣にいるからな。裏番の次のメイコのあだ名は、お嬢で決まりだな。確かこの前みた映画では、お頭の娘のことをそう呼んでたよな?」
眼鏡コーナーへ行って、色んな眼鏡を吟味する。
少々オウガをからかえば、自虐ネタとも取れるような返しがきて、逆にからかわれてしまった。
「というかメイコ。オレは目が悪いわけじゃないぞ。なのに、どうして眼鏡をプレゼントしようとするんだ?」
「度が入ってないから大丈夫。まぁとりあえず、これかけてみてよ」
そういうことを言っているわけではないとわかっていたけれど、強引にオウガへと眼鏡をかけた。
「うん、私の目に狂いはなかったね! 眼鏡をかければ、冷徹な生徒会長キャラっぽくなるよオウガ! 眼鏡してたら、街で絡まれることも少なくなるんじゃないかな。うん、よく似合ってる!」
「それ、褒めてるのか……?」
私の言葉に、オウガは訝しげな顔をする。
「もちろん! 格好いいよオウガ!」
「……そうか。それならいい」
元気よく請け負えば、オウガは満更でもなさそうな顔をした。