16.高校にはボスがいるそうです1
話が続いてるので、夕方にも投稿します
「ねぇ、オウガ……寒くないの? 雪降ってるよ?」
季節は二月。
この寒すぎる中、登校してくるオウガはコートすら着てなかった。
「これくらいなら平気だ。人間は寒がりだな」
朝、偶然に登校時間が被ったのだけれど、横を歩くオウガが薄着すぎて、こっちまで寒くなってくる。
強がっている様子ではなく、本当に寒くないらしい。
その大きな手に触れてみれば温かく、嘘をついているわけでもなさそうだった。
「それでも、その格好は寒いから。風邪ひかないなんて油断してたらダメ! このマフラーあげるから、冬はちゃんと巻くように。あと、次の休日はコート買いにいくからね!」
少し背伸びして、オウガの首に赤いマフラーを巻いてやる。
これで少しはマシになった。
「このマフラー……もらっていいのか?」
「私の編んだ使い古しの奴で悪いけど、使って。もう一つ家にあるしね。別に男が使っても問題ないデザインだし。寒くなくても、冬は毎日首に巻くこと!」
びしっと指を立てて言えば、オウガはわかったと頷いた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「あの……オウガくん、校門のところで他校の人達が呼んでるんだけど」
その日の放課後。
怯えた様子の男の子が教室にやってきた。
「他校に知り合いなんていない」
「そ、そう言わないでよ! 連れていかなきゃ、俺達が痛い目に遭わされるんだ!」
男の子が涙目で訴えてくる。
「知るか」
オウガは興味なさそうにそんなことを言い放つ。
仕方ないので私が代わりに窓のほうへ行って、校門の方を見れば……確かに他校の制服を着た男達がいた。
着崩したその制服は、近くの不良が多いと有名な某高校のもの。
人数は十名くらい。
手にはバットやらパイプやらを持っている。
「オウガ……どこかで喧嘩売ってきたの?」
机の前に立って問いただしたのに、オウガはノートから顔をあげることすらしない。
「そんなことしてない。そんなことより期末テスト前だから勉強がしたい」
真面目か。
全くオウガときたら、この非常事態に冷静すぎる。
授業中に聞いたことを、先生から借りた録音機器で録音しつつ、ノートによくわからない文字で書き綴っていた。
たぶんオウガの国の文字なんだろう。
「んにゃろ、どうしてきやがらねぇんだよ、ああん?」
金髪に脱色した髪の、制服を着崩した……いかにも不良という感じの男が、いつの間にか教室へ来ていた。
その後ろから、ぞくぞくと不良達がやってきて、私やオウガの周りを取り囲む。
「見つけたぞ、てめーがオウガって野郎だな? ああん?」
ガッとオウガの机の脚を蹴り上げて、男が言う。
オウガはそこでようやくノートから顔を上げた。
「……何か用か」
仕方ないから聞いてやるといった態度。
オウガときたら、相手を煽るつもりなのか。
はらはらしていたら、男のうちの一人がオウガの胸ぐらを掴んだ。
「てめーがこの高校の新しいボスだってことくらい、調査ずみなんだよ。いいからさっさとこいやぁ! 弱虫が!」
どうやら不良達は、オウガがこの高校を牛耳っていると思っているらしい。
完全な誤解だ……と思った私だけれど。
一つ頭に思い浮かぶことがあった。
オウガは顔が怖い。
それでいて、よく不良に絡まれていた。
高校に入学した当初、私が目を離した隙に上級生に屋上へと連れ出され、そして逆に不良どもを返り討ちにしたことがあったのだ。
彼らは、この学校を仕切っている不良だったらしい。
それ以来、オウガは皆から怖がられるようになってしまっていたのだけれど……どうやらその噂が他校まで伝わってしまったようだった。