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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
15/43

15.嫌がらせ

 朝、靴箱を覗いて、またかと思う。

 そこには「死ね、ブス」と書かれた紙が置いてあった。

 暇人だなぁと思いながら、それをポケットにしまう。

 人気者の大地と仲がいい……というか、大地が一方的に絡んでくるせいで、私はすっかり女子にマークされてしまっていた。


 これは別に今に始まったことじゃない。

 一学期の頃からあったことだ。


 大地はモテる。

 女の子から告白されることも多いのだけれど、それをことごとく振っていた。

 そんな大地が私のことを気にかけているという話しは、結構噂になっていた。

 しかも私は、そんな大地に迷惑そうな態度を取っている。

 かわいいわけでもないのに……何様だと、そんな感じで私は嫌がらせを受けていた。


 今のように靴箱に差出人不明の手紙があったり、ノートが破かれていたり。

 体育着がなくなっていたり。

 一学期の頃は、そもそも高校に通うつもりがなかったから、それもやめる理由の一つだよねと思うことにしていた。


 そういうことがあった日は、早退してバイトに精を出していたので、ダメージも少なく済んでいた。

 すぐにここをやめるのだからと思えば、辛いことも我慢できた。


 しかし、今は状況がちょっぴり違う。

 困ったことに、上履きが濡らされてしまっていた。


 オウガにだけは……ばれたくない。

 いじめられている。

 その事実が、なんだか惨めだ。

 心配をかけたくはなかった。


 今から引き返して、今日は風邪ということでズル休みしよう。

 こういうことがあった朝に、教室へ行くのも……やっぱり辛いしね。

 なのに、上履きを持って玄関口へ行こうとすれば、タイミング悪くオウガがやってきた。


「どうしたメイコ。忘れ物か?」

「うん! まぁ、そんなとこ!」

 慌てて後ろ手に濡れた上履きを隠しながら、オウガに言う。

 いきなり声をかけられて、誤魔化そうとした結果、笑顔で元気よく答えてしまった。

 風邪という理由が使いづらくなってしまったけれど、今はとにかくこの場から逃げたい。


「何を忘れたんだ? ノートならまだ余ってるのがあるし、教科書ならオレのを一緒に見ればいい。わざわざ帰らなくてもいいだろ」

 何かなかったかなと、頭をフル回転させたけれど、いいものは出てこなかった。

 今日に限って体育もないので、体育着を忘れたという言い訳も使えない。


「……ん? メイコ、足のあたりに水が垂れてる。何を持ってるんだ?」

 オウガが私の持つ上履きに気づいてしまった。

 びっしょりと濡れた上履きから水滴がしたたっていて、それが小さな水たまりを作っていた。


「なっ、なんでもないよ!」

 オウガに背を見せないようにして、玄関側へと移動する。

 いぶかしむような視線を、オウガが私へ向けていた。


「じゃあ、私急ぐから!」

「待て」

 逃げようとすれば、腕を掴まれる。

 そして、上履きを見られてしまった。


「なるほどな……嫌がらせをされたのか」

 すっとオウガの目が細まる。

 しまったと思った。


「いや、違うのよオウガ! トイレで手を洗おうとして、少し加減を間違って……」

「……」

 無言のオウガから、怒りが伝わってくるのがわかる。


 教室へと歩き出したオウガを、上履きを持ったまま追う。

 オウガが力任せにドアを開ければ、衝撃でドアが少しひしゃげ、レールから外れる。

 教室中がただ事じゃない雰囲気に気づいて、息を飲んでいた。


「メイコの靴を濡らした奴、出てこい」

 オウガときたら直球だ。

 そんなふうに脅されて、素直に出てくる奴なんているわけがない。

 名乗りを上げた瞬間、ぼこぼこにされてしまいそうだった。


 オウガは自分の席へと歩いていく。

 その横にある私の机に、油性マジックで心ない落書きがされていて。

 それを見てから、教室にいるクラスメイトへと目をやった。


「……今素直に出てくるなら、メイコに謝らせるだけですませてやる。知ってて黙ってた奴らも同罪だ」

 底冷えのする声。

 オウガから発せられる敵意に、誰もがその場を動けずにいた。


「今なら許してやるって言ってるんだが。本当に、誰がやったか……お前達は知らないんだな?」

 オウガがピリピリとした雰囲気で口にすれば、クラスメイトの何人かが同じ人物へと視線を向けていた。

 その視線が集まる先には、一人の女生徒。

 大地に気がある西川さんが、蒼白な顔をしていた。


「これ、誰がやったか知らないか? 確か、西川って言ったよな?」

 低く、ドスの効いた声でオウガが西川さんに尋ねる。


「あ……」

 西川さんはガタガタと震えて、唇まで真っ青だ。

 犯人は明らかに西川さんだろう。

 尋常じゃないほどに怯えていて、こっちが可哀想になるほどだ。

 大地がらみで、私に嫌がらせをしてきたに違いなかった。


「ご、ごめ……」

「聞こえないな。ちゃんとメイコを見て言え」

 すでに涙声の西川さんを、オウガはさらに睨み付ける。


「オウガ、もういいから!」

「いいわけないだろ。別にオレは正義の味方ってわけじゃない。他の奴に何をしようとお前の勝手だが、メイコを傷つけようとするなら……」


 止める私の前で、オウガが西川さんの机に拳を落とした。

 何をどうやったのか、その机が真ん中からひしゃげる。

 教室中が唖然としていた。


「オレが相手になってやる。わかったら、今すぐメイコに……」

 西川さんの胸ぐらを掴み、オウガが脅しをかける。

 コクコクと頷く西川さんは、恐怖からか泣いていた。

 あきらかにやりすぎだ。


 ――オウガの暴走を止めなきゃ。

 はっと我に返って、持っていた上履きでオウガの背中を思い切り叩いた。


「オウガ、いい加減にしなさい!」

「なっ、メイコいきなり何するんだ! それ濡れてるだろうが!」

 私の突然の行動に、オウガが驚いた声を上げる。


「オウガは熱くなりすぎるの! 私の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、やりすぎだから!」

「あぁ? まだ何もしてないだろうが」

「いや、十分してるから! まだって、もっと何かするつもりだったの!?」

 眉を苛立たしげにつり上げるオウガは、全然足りないと言いたいようだ。

 しかし、これ以上はダメだと強く言い聞かせる。


「西川さんも反省してるから! 私と大地の仲がいいって勘違いして、少しいじわるしたくなっただけだよね? もうしないよね、西川さん!」

 なんで私がいじめた側を庇ってるんだろう。

 頭の隅でこのおかしな状況に首を捻りながら、西川さんに言えば、勢いよく首を縦に振る。


「ご、ごめんなさい……もう、しませんから……」

「あぁ? 謝るくらいなら最初からするな……って、メイコなんでまた叩くんだ!」

「謝れって言ったのオウガでしょ! なのに謝ったら凄むのはダメ!」


 頭を下げた西川さんを睨み付けたオウガを叱る。

 オウガは納得いかない顔をしていたけれど、西川さんはもう十分に反省しているようにみえた。

 もう私に嫌がらせをしてくることはないだろう。


 この後すぐに担任のクマ先生がやってきて、どうにかその場は収まった。

 オウガが壊した西川さんの机は新しいものになり、私の机は、休み時間に西川さんが責任を持って綺麗にしてくれた。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ 


 昼休み、オウガばむすっとした顔で弁当を食べていた。

「オウガ、やりすぎだとは確かに思ったけどさ」

「なんだ。説教ならいらない」

 話しかければ、オウガがうんざりだというように口にする。


「……私の為に怒ってくれて、嬉しかった。ありがとね」

 心からの感謝の言葉。


 親しい相手に、自分がいじめられていると知られることは、何だか怖かった。

 心配をかけるとか、そういうこともあるけれど、たぶんそれだけじゃなくて。


 クラスの中でいじめられるくらいに、自分の価値がとても低い。

 親しい相手にそうバレてしまうのが、怖い……恐怖があるというか。


 終わってみれば、別に西川さんにいじめられているからといって、私がダメな奴ってわけでもないことくらい……わかる。

 自分では平気で、冷静なつもりでいたけれど。

 知らず知らずのうちに、相手の悪意に私は飲まれてしまっていたんだろう。


「オウガと友達でよかった」

 いつか、オウガが困っているときは私が助けたいな。

 そんなことを思いながら、言葉にする。


 まっすぐ目を見て伝えれば、オウガは驚いたような顔をして。

 それならいいんだと少し照れたように呟いた。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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