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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
12/43

12.オウガの兄弟

「……余計なことをしたか?」

「ううん、ありがとう」

 靴箱の前まできて、オウガが尋ねてくる。

 首を横に振ってお礼を言えば、ほっとしたようだった。


「なぁ、メイコ……やっぱり、ちゃんと話し合うべきだと思う」

 オウガにまで諭されて俯く。

「やっぱり、迷惑だよね」

「オレはメイコがいてくれたほうが楽しいし、迷惑だと思ったことはない。美味しい夕食にもありつけるからな」

 そこまで口にして、オウガが靴を履き替える。


「ただ、親や兄弟に心配をかけるのは……よくないだろ。いい年した娘が男の家に入り浸って帰ってこないなんて、親御さんが心配して当然だ」

「……心配なんて、本当はしてないよ。母さんは私のことなんて、本当はどうでもいいと思ってるんだから」

「オレが口を出すことじゃないし、放っておけば……そのうち自分で問題に向き合うだろって思ってたんだがな」


 唯一の味方だと思っていたオウガまで、説教じみたことを言ってくる。

 柄じゃないなと呟いてから、オウガは私の頭を撫でてきた。


「そんなわけないって……本当はメイコもわかってるんだろ。母親が再婚したのも、メイコのバイトを全て止めさせたのも。メイコを大切に思ってるからだ」

「……そんなの、私は望んでなかった。貧乏だってよかったし、私も働くって言ったのに」

 私達兄弟を育てるために、一人では大変だったということくらい理解していた。

 母さんに愛されているということもわかってる。


「父さんの場所に別の人がいるのが……嫌なの」

 頭ではしかたないことだとわかっていても、心が納得してくれなかった。

 新しい家族とすごすことは、父さんに対する裏切りのような気がして。どうしても受け入れることができない。

 ぎゅっとオウガの制服の裾をにぎる。


「大切な人に……代わりはいないよな」

 共感を示すように声が揺れる。私と同じように、大切な人をオウガもなくしているのだと、その言葉でわかった。

「でもな、大切にしてくれてる人がいるなら……悲しませるな。メイコには……オレみたいになってほしくない」

 私の手から傘を取って、オウガが開く。

 その表情は……傘に隠れて見えなかった。


「家まで送っていってやる。ほら、行くぞ」

「……うん」

 靴を履き替えて、外へと歩き出したオウガの側に並ぶ。

 私の傘はただでさえ小さいのに、オウガは私が濡れないように傘を傾けている。その肩は半分くらい傘の外に出てしまっていた。


「オウガ、私……一人で帰れるよ? オウガが風邪ひいちゃう」

「丈夫なのが取り柄だから平気だ。風邪なんて引いたことないしな。いいから送られとけ」

 傘を打つ雨音を聞きながら尋ねれば、オウガが答える。

「……小さい頃は病弱だって言ってなかったっけ?」

「俺の一族は基本的に丈夫なんだ。魔力過多……体質のせいで、熱を出すことが多かったが、大人になれば自然とどうにかなった」


 オウガの過去の話を聞くのは初めてだ。

 気になってはいたけれど、聞いていいものか躊躇っていた。


「どんな子供だったの?」

「根暗な子供だったな。暇さえあれば本を読んで……後はいつも双子の弟と一緒にいたな」

「オウガって双子なんだね! 知らなかった……弟はオウガに似てるの?」

 尋ねながら、オウガが二人いるところを想像する。

 結構、迫力満点だ。


「いや全く似てない。弟は父さんに似ていて、オレは母さん似なんだ。オレが外に出られないことが多かったせいで、あいつには昔からいっぱい我慢をさせてた」

 弟のことを話すオウガは優しい顔をしていた。

 それを見れば、仲のよい兄弟なんだなということがわかる。


「オレに付き合って、いつもイクシスは側にいてくれたんだ。楽しいことがあっても、友達に誘われても面倒だ、興味ないって顔をしてな。好奇心旺盛で人好きな奴だったから、本当はオレなんか放っておいて……自由にすごしたかったはずなのに」

 イクシスというのが弟の名前なんだろう。

 噛みしめるように口にするオウガは、どこか寂しげだ。


「オレは卑怯な奴だからな。一人でいるのは寂しくて……あいつが優しいのをいいことに、自分に縛りつけてたんだ。おかげで弟は、自分の気持ちを押し殺すのが得意な奴になってしまった」

「もしかして、オウガの弟さんって、もう……」

「……死んだも同然の行方不明ってやつだ。あいつは、自分から……それを選んだ」


 オウガの瞳に暗い影が差す。

 その表情を見て、この話題はあまり口にしちゃいけなかったものなんだと気づいた。


 きっと、その弟さんがいなくなってしまったから、オウガはこの国へ来たんだろう。

 なんとなく、そんなことを思った。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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