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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
11/43

11.義兄

「ねぇ、オウガ。おかしいよね。絶対に、これはおかしいよね!!」

「何がだ?」

 目の前に並ぶのは、返却された二学期末のテスト。

 私が五教科全て赤点なのに対し、オウガの赤点は三教科だけだった。


「どうして、一緒に遊んでばっかりいたのに……オウガのほうが私より成績いいの!」

「そんなこと言われてもな……」

 バンと机を叩けば、オウガは困った顔をしていた。


 味を占めた私は、休みのたびにオウガを遊びに誘っていた。

 オウガもまたそれを喜んでくれるものだから、ついつい……テストのことを忘れ。

 そして……見事に私のテストは、赤点だらけだ。


「というかさ、オウガって日本の文字を読んだり書いたりするのが苦手なだけで、頭自体はいいんだよね」

 冷静にサキがそんな分析をする。

 文字を読まなくていいからか、オウガの数学の点数は平均点以上あった。

 英語もそれなりに取っておりギリギリで赤点は免れている。


「メイコは要領悪いんだよね。あたしみたいに上手くやらないと。ヤマ張って一夜漬けがおすすめだよ?」

「それができるの、サキだけだからね? 全然勉強してなかったくせに……ずるい」

 直前までサキは遊びまくっていたくせに、全教科赤点は免れていた。

 昔からサキは勘と要領がいい。


「そう落ち込むなメイコ。今回は追試で合格すれば、補習はなしみたいだぞ」

「合格すれば、ね……」

 オウガが慰めてくれるけれど、五教科もあると思うとやる気がなくなる。


「結構、勉強してたんだけどなぁ……」

「新しいこと詰め込むと、メイコの場合古いことがポンと抜けるからね。まるでロケット鉛筆のように」

 溜息を吐けば、サキがそんなことを言ってくる。

 否定できないところが悔しい。


「明日から追試か……」

「どんまい、メイコ!」

 机に突っ伏す私に、ケラケラと笑いながらサキが言う。


 ふいに雨音が強くなって外を見れば、空の色が暗く思えるほどの雨が降っていた。

「雨凄いね。メイコ、傘持ってきた?」

 困ったなぁといった様子で、サキが聞いてくる。


「いや……持ってくるの忘れた。オウガは?」

「忘れた」

 私と同じく、オウガも傘を忘れたようだ。

 朝はいい天気だったから、傘はいらないだろうと思っていた。


「天気予報で、午後から大雨だって言ってたのに」

「大丈夫だって思ったんだよ。どうしようかなぁ。オウガの部屋に走っていって、雨が止むまでゴロゴロしようかな」

 肩をすくめたサキに答えながら、止む気配はなさそうだなと窓の外を見つめる。


 しかし、この雨だと……オウガのマンションにたどり着く前にびしょ濡れになりそうだ。

 そんなことを考えていたら、クラスメイトの西川さんに声をかけられた。

「百瀬さん、隣のクラスの朝倉くんが呼んでるわよ」

 言われて教室の入り口を見れば、そこには義兄の大地が立っていた。


「百瀬さん、よく朝倉くんに呼び出されてるよね? どういう知り合いなの?」

 含みのある言い方で、西川さんが可愛らしく小首を傾げる。

 西川さんは、ゆるふわな髪型をした女の子で、毎日化粧もばっちりだ。甘ったるい喋りかたが特徴で、クラスの中心人物ともいえる子だった。

 詮索されたくないなと思っていたところを、ずばり突いてくる。


「しかもさ、いつも話すとき……名前で呼び合ってるよね?」

 西川さんの瞳が、敵意を帯びて私を見つめる。


 それは私が大地のことを「朝倉くん」と呼ぶと、「メイコちゃんも、もう朝倉だよね?」と返してくるからだ。

 そのやりとりが嫌で嫌で、しかたなかった。

 学校で使う名字は「百瀬」のままになっているけれど、私の実際の名字はもう……朝倉だったりする。


「二人って、付き合ってたりするの? 気になる人がいるから、この学校に来たんだって……この前、朝倉くんが言ったらしいんだけど」


 大地は女子から人気がある。

 お金持ちの息子で、名のある私立中学に通っていたのに、なぜかこの学校へやってきた謎の転入生。

 整った顔立ちに優しげな雰囲気。

 成績優秀で運動神経もよく、人当たりもいい完璧超人だった。

 おかげで私は、女子から嫉妬の対象になっている。


「付き合ってるとかは、ありえないから」

「じゃあ、どういう関係?」

 プライベートなことなのに、西川さんはつっこんでくる。

 逃がす気はないというように、行く先をふさがれてしまっていた。


 ずっと聞く機会を窺っていたんだろう。

 話したくないなと思っていたら、オウガが西川さんの側までやってきた。


「なっ、なによ……」

 怖じ気づいた西川さんの隣にある机を、オウガが叩く。

 その音に、クラス中の視線が集まった。

「机の上に蚊がいた。少し力を入れすぎたな……驚かせたなら悪かった」

 全然悪いと思っていない態度で、オウガが西川さんを睨む。

 西川さんはオウガに背を向けて、教室を出ていってしまった。


「……オウガ、あんたバカでしょ? 蚊を退治するために、机割る気だったの? 少しヒビ入ってんだけど。これ、あたしの机よ?」

「だから力入れすぎたって謝ってるだろ。ヒビは……最初から入ってたんだろ」

 詰め寄るサキに、しれっとした態度でオウガは答えれば、いつものごとく喧嘩が始まってしまった。

 すでにクラスメイト達も慣れたもので、また元の話題へと戻っていく。


 教室の入り口を見れば、義兄の大地と視線が合う。

 この騒ぎの間に帰ってくれればよかったのにと思いながら、何か用と話しかけた。

「傘、忘れていったでしょ? 母さんがメイコちゃんに渡してって」

「……そう、ありがと」

 受け取ってさっさと帰ってもらおうとしたのに、大地はまだ立ち去ろうとしない。


「西川さんが言ってたけど、メイコちゃんは……桜河くんとつきあってるの? 前に桜河くんに色々聞いたら、ただの友達だって言ってたけど。メイコちゃんが遅くまで遊びに行ってるのは、桜河くんの家なの?」

 問い詰めるような口調は、大地がこのことをよく思っていないのだと伝えてくる。

 というか、オウガに直接聞いたりもしていたらしい。

 兄面をして、人の交友関係に口出しするのはやめてほしかった。


「大地には関係ないでしょ」

「……メイコ、もう用事は済んだか?」

 突き放すように口にしたところで、心配になったのかオウガがやってくる。

 私の鞄も持ってきてくれていた。


「うん。行こうか、オウガ」

 一刻も早くそこから立ち去りたくて、早足で歩く。

 大地が呼びとめる声が聞こえたけれど、それを無視してその場を後にした。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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