10.はじめての友達
「オウガが携帯電話をほしがるなんて、意外だね」
あれから数日。
私はオウガに付き合って、学校が終わった後、携帯ショップに足を運んでいた。
「いや……柳のやつが、高校生なら必須のアイテムだというからな」
オウガは、柳くんと少しずつ喋るようになってきた。
何かと話しかけてくる柳くんを、オウガが無視できなくなってきたというほうが正しい。
「ふふっ」
「なんで笑ってる。気色悪いぞ?」
思わず笑った私に、オウガが変な顔をする。
「失礼な。オウガにも私の他に友達ができたんだなって、嬉しくなっただけだよ」
「友達……ね」
私の言葉を反芻するように、オウガが口にする。
「前から思ってたんだけど、もしかしてオウガって……友達と昔何かあったりしたの?」
踏み込むのはよくないかな。
そう思いながらも、気になって尋ねる。
「いや、そもそも……友達がいなかったからな。あまり学校に行くこともなかったし、体調がよい日には弟と一緒に行くこともあったんだが……ろくなことがなかった」
トラウマに触っちゃったかなと思ったけれど、案外あっさりとオウガは口にした。
「オウガ、病弱だったの?」
「まぁ、そんなところだ。それにこの外見もあって、皆オレに近づかなかったからな」
淡々口にするオウガは、仕方ないことだと思っているみたいだった。
「私のほうは番号登録したよ。オウガはできた?」
「あぁ、できた」
尋ねれば、オウガが達成感に溢れる声を出した。
「メイコがオレの友達、第一号だな」
友達のグループに登録した私のアドレスを見ながら、オウガは目を細めていた。
その嬉しそうな表情に、こっちが照れてしまう。
「この年になって友達ができるなんて、思ってもみなかったな。家族以外とすごして、楽しいと感じたのは初めてだ」
しみじみとした様子で言いながら、宝物のように優しく携帯の画面を閉じて、オウガはポケットにしまう。
「今、毎日が結構楽しいんだ。生きるのをやめなくてよかったって、心から思う。これもメイコのおかげだ」
お礼を言って、オウガは私の頭を撫でた。
生きるのをやめなくてよかったってことは……オウガには、死のうとしていたときがあったんだろうか。
それを思えば、心の奥がひやりとした気がした。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「オウガ、遊びに行こう!」
「行きたいところがあるのか?」
休日の朝、オウガの部屋にくるなりそう宣言すれば、眠たげな様子で尋ねられる。
昨日、オウガは私を友達だと言ってくれた。
なら、友達らしく遊びにいくのもいいんじゃないか……なんて思ったのだ。
その日はオウガを連れて、遊園地へ出かけた。
久しぶりすぎてはしゃいでしまって……帰るころになって、私ばかりが楽しんでしまったんじゃないかと反省する。
「オウガ、ちゃんと楽しめた?」
「あぁ」
帰りの電車の中で尋ねれば、オウガが頷く。
それならいいんだけどと、もやもやした気分になる。
「なんでそんな顔をしてる? メイコは楽しめなかったのか?」
「いや、そうじゃなくて……オウガに楽しんでもらおうと思ったのに、連れ回して疲れさせただけなんじゃないかなって思って」
あれ乗ろうよとか、これもやりたいとか。
オウガがメイコに任せたとかいうものだから、つい好き勝手に動いて……しかも一方的に楽しかった感想を語っていた。
反省していたら、オウガが頭を撫でてくる。
「ちょ、オウガ!?」
「楽しかった。とてもな」
そう言ったその顔が……とても優しげで、嬉しそうで。
つい、目を奪われた。




