↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/8

5(寝てなさい)

   *


 母が今朝の残りを温め直し、卵おかゆにしてくれた。

 食欲はやっぱりなかったけれども、頑張って少し食べ、処方された三種類の錠剤を飲んだ。


「あー」娘をベッドに寝かしつけ、母は掛け布団を整えながら変な声を出した。「会社戻るのかったるいなー」

 おどけた口ぶりに、娘の口元は思わず緩む。


 寒いしなー。雨だしなー。雪になりそうだしなー。


 立て続けに三つも理由を挙げられるのなら、それはそれで良いではないか。「お休みしたら?」

「それはとても冴えた考えね」お母さんは頼子の頭を優しく撫でる。「うっちゃった案件、ちゃっちゃと取り繕ってくるわ」


「長くかかる?」


 すると母は。「ペディキュア塗りながらだったら、乾く時間くらいはかかるかな」


「何云ってるの?」


「ごめん」お母さんは笑った。「ちっとも面白くないね」


「いいよ」頼子も笑った。「大丈夫だから」


「パパッと片付けてくるから」


「大丈夫だから」

 娘は言葉を繰り返した。

「急がないで丁寧に、きちんとお仕事して下さい」


 母が娘の頬を羽根のように軽く摘んだ。

「分かりましたよ」

 手を放し、ローテーブルの上のペットボトルやティッシュ箱、携帯電話を並べ直した。

「何かあったら直ぐ電話」


「おーきーどーきー」


「その調子なら今夜にも良くなりそうね」


「めいびー」


「調子に乗らないで、寝てなさい」


「はぁい」


 そして再び、風邪っぴきがお留守番。


   *


 はっ、と目覚めた。今何時?


 カーテンを閉めきった薄暗い部屋の中、壁掛け時計に目を遣った瞬間、ケータイが震え、メッセージの受信を伝えた。


『具合どう? 寝てたらごめん』


 風邪菌キャリア、伊織だった。

 ちょうど学校が終わった頃合いだ。


 返信した。

『良くなっていると思う。午前中は変な夢見た』


 返事は直ぐ来た。

『あたしン時は、ちっちゃいおっさんが踊ってたよ』


 どんな夢だ。


 ふと、父を思った。

 二色に切られた世界に立っていた父。


 送信:おっさん、何か云ってた?

 受信:ホーミー歌ってた。


 伊織ちゃんは時々、不思議だ。

 いや、時々普通でだいたいが不思議か。


 送信:それってUMA?

 受信:チュパカブラなら裏の畑に。


 嘘をつくな。南米産だろ、あれ。

 でも、ネタは拾ってあげるのがお友達。


 送信:吸血された?

 受信:嘘。河童はあるけど。


 何故に河童。

 追撃がきた。


 受信:今頃、山で凍えてると思う。


 山ですと?


 送信:河童って山にいるの?

 受信:秋に冬毛になって、山に帰るんよ。 


 冬眠するのか、河童。

 はたして今後の人生で河童について語る機会はあるのだろうか。

 余程の無駄知識を得てしまった。


『何か欲しいものあったら寄るよー』


 伊織の心遣いを嬉しく思いながらも、辞退した。


 風邪菌のキャッチボールはやめるべき。


 ケータイを置き、カーテンの裾を少しめくった。

 空気がひやりと手に触れる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。