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カタカナ語俳句

作者: 都築優

 世に(あふ)るゝカタカナ語、苦界に()いて()の侵食の(はなは)だしき事この上なし。今日では元の発音、プロナウンスを少しも残さぬもの(まで)あると()ふ。

 されど、此処(ここ)でプロポウザルすべくはその批判に(あら)ず、反省に非ず。

 又英語俳句なるものも()るにや在るが、似て非なること禿(はげ)刷毛(はけ)(ごと)し。

 (しか)らば換骨奪胎(くわんこつたつたひ)と目指すべくは一つ。

 もはや日本語と相成った彼の言葉をのみ、使用した新たなる俳諧(はいかい)も或いはまた、可笑(おか)しからん()




スプリング ロールオーバー ハングリー


 先ずは春巻、空腹が過ぎて中華料理屋で直ぐに出来る糧はないか如何と尋ねるに、此れが出された春の情景。旬の野菜に旬の海鮮。乾き切った心に満ちてゆく喜び。恐らく先物取引で失敗したのであろう心境の、切り替え。


 rolloverのプロナウンスを正確に近づけたカタカナ表記するとゥロオラヴァと成る。

 始めの()は舌を丸めて上顎に付けない、巻き舌に言へば回転する印象が強調される。loverは恋人と同じ発声なり。




スプリング ウィンドーイズブローイン


 ジユデイヲングと云ふ亜細亜の歌姫に触発されて継いでに一句。

 sprに始まる単語は生命の息吹や何かが勢いよく湧き出ずる様を象徴する、まことに瑞々しい言葉なり。

 尚、ウインドの尾は本来伸ばしてはならぬ語であり伸ばせば窓になってしまふ。しかしこの句に於いては開け放たれた窓に吹き込む風とのダブルミイニングを兼ねて居る。決して窓が吹き飛ぶ様を想像してはならぬ。


 spring も blowing もグは明確に発音せぬ事に注意されたし。judyのonggもグは発音しなひ。




ニューイヤー サンライジング マウンテン


 新春と云へば今年の元旦に、初日の出を見に山に出立した折、山奥にてモウタアサイクルの燃料が切れて往生した。凍つてゐる道を押して麓まで辿り着いてみるにガソリンヌスタンドが閉まつて居ると云ふ新年早々の災難。


 yearの発音はearより少し長めにyを言ふ。最後のrは舌を巻いてイイヤロと言う積もりで言ふ。()は舌を上顎に付けなひ。




アイヘイト チェリーブロサム オーマイガ


 受験に失敗した哀しみを表現した一句。

 櫻咲く友人を尻目に、華を呪い神に縋る姿は責任転嫁の一言。自己を省みて精進すべし。

 自らの弱き心を認め、労わり乍らも励まして遣る事が出来たとき。その時こそ彼はきつとチエリイボオイを卒業(そつぎやう)している事であらう。


 hateには強い憎悪の意味が有るので相手を見て使用すべし。気になるあの娘に敢へて言ふのも(こひ)のテクニツクの一つなり、頑張りたまへ。




イッツァキング レインフロッグ シンギング


 梅雨に闘ふ痩せ蛙は、かの俳聖の応援にて王者となりける。チヤンピヨンベルトを掲げた蛙は挑戦者を軒並み返り討ちならぬカエル討ちにして唄ふ。自然のものに人が手を加えてはならぬと云ふ戒め。

 イツツアと一茶を掛けて居る。


 kingやfrogのグは明確に発音せず僅かに鼻に抜けるように言へばネイテヴに近ひ。sing等も同じで或る。以前バアに行つた折に居たフイリピンヌの女性にマイクを渡されスイン(歌へ)!と言はれた時なぞ初めは意味が分からなかつた。(※吸いんと取りて乳房を吸わむと試みマイクにて張り倒されたのは別の話なり)singingのように後ろに母音(ボイン)が付けば発声されるが後ろの方のグはやはり無音となりて候。




アイライク ウェットアンド モイスチャー


 叙情と叙事。湿っぽいのは好かぬと口では言い乍らも心中では如何に。黴びた外蓑の内に秘めたる半熟なハアトこそハアドボイルドの真髄と知れ。


 wetのwはダブル・ユウの意。uを長く発音すべし。




アクチュアリ サマバケーション ノータイム


 塾や習い事で、実際には休む暇もない今日の学生の悲哀。ゆとり。


 vacation のvは下唇を前歯に当てた摩擦音。声帯を震わせればv震わせざればfとなる。bより寧ろthに近き事を念頭に置く事。




ヤングマン ビッグオーシャン スイミング


 若人の砂浜で泳ぐ様。灼熱の太陽。蒼き海。寧ろヤングガアルのプツシイこそ是非拝みたきものでは有るものの語数の多寡と卑猥なるゆえ割愛した。

 因みにその昔、歌謡曲として流行したヤングマンなる唄、元は男色家文化より発祥せしものだと云ふのは周知の事実であらう。

 女子に見向きもされぬる男が大海に抱かれひたすら泳ぐ姿も一興。


 リンキング、リエゾンなど呼び方は有れど、子音の語尾をした単語が母音ボインの語頭と並ぶと連続して発声さるゝ。big ocean は敢へてカタカナにて表記すればビイゴオシエンと相成りぬ。




アウトドア エキサイティング スマホゲー


 木陰のハンモツクにて涼し気な風を浴び乍らダンジヨンヌなどを散策するも叉風流。風刺。


 携帯電話はcell phone。スマアトフオンヌはそのまま。phの発音はfと同じくす。此れは希臘(ギリシア)語のΦ(フアイ)こそ起源とす。希臘語をラテン語に移入せし時、酷似したπ(パイ)をpとして書き分けしたものの、後に希臘語の方でΦがfの発音で読まれるようになり、かくて二通りの記述法となった次第。




コンピュータ ホットシーズン ブロークン


 バソコンヌの発熱に悩まされた御仁は数多けれど、クウラアの無き我がアパアトメントに於いては終ぞ壊れるに至った。微かな憐憫とエコロジイの虚構。温暖化対策という錬金術。社会の歪み。右も左も求めるは只、己が利権のみ。(まっこと)に浅ましき姿(かな)


 broken の如き動詞の不規則変化はゲルマン祖語が起源なり。丸暗記も良いが偶に其の成り立ちなどを調べて覧るのも面白し。




サンセット フォーリンリーフ マウンテン


 斜陽の深山に落ち葉の舞う様が目に浮かぶ。カタカナ語は選択肢はもとより字数制約のことさら厳しきものなれば、景観や情動は読者の深き洞察に依ってのみ穿たれる。行間を読む。目に見えぬものを感じる。それが秋。


 大母音(ボイン)推移と云ふのは黒死病(ペスト)にて知識階級の殆んどが死滅せし跡、無知蒙昧な愚民の好き放題な発音が主流になつてしまつた説が有力なり。

 sun がスンでなくサンに成るのもfallがフオウ(ダアクエル・後述)に成るのもleafもmountainもこの所以(ゆえん)である。




マイラバー オータムフェスタ ショッピング


 所謂(いわゆる)、現金自動支払機の悲哀を描いた情景。冷や汗。財布の中身やカアドの残高、融資限度枠が気になる御年頃。見栄と己惚れ虚飾と(げん)気、慕情に劣情、ボジヨレエ・ヌウボウ。其れが(おとこ)の務めなり。南無。


fallはゲルマン系で主に米国で用いられautummはラテン語系で英国にて使はれる。




アイコール ガールフレンド カムウィズミ


 耶蘇教の預言者生誕祭を前に、恋人を電話で呼び出して居るのか、其れともガアルフレンドよ何処(いずこ)かより来たりて我のもとへ!と叫ぶ哀しき姿なのか。切れ字を何処に置くかで意味の変わる句。前者は米印。


 callやgirlのlはダアクエルと云ひて発音せざるなり。語頭にあればライトエルと云ひ前歯に舌を当てて発音するが、語頭にあらざれば常にこれと心得(こころへ)よ。




ロンリネス コールドスカイ スノーマン


 北風吹き荒ぶ中、佇む雪達磨に見ゆる孤独は世の冷たさを知る。

 溶けて消ゆるか除雪車に踏み潰さるゝか泥や塵埃そして排ガスと汚濁に(まみ)れ目鼻は(こぼ)れ落ち、手足は()ぎ取られ彼は何故(なにゆえ)生を受けたか。そう彼の姿は人の生き(よう)其の物なので在る。宿命。


 カタカナ語俳句に英文法は不要なり。日本語と化した平易なカタカナ語のみを用いるべし。

 ()し我こそはと思ふ者在りければ、感想欄等に出来た句を御書き頂きたく候。





番外


アイシンク ユールックソー ……バイザウェイ


 季語のないこの句は川柳とすべきだらふ。言ひかけて辞め、別の話を始めるとゐう、誠に残念な容姿を示して居る。


 think や the は舌を噛んで摩擦音にすべし。噛まねば沈む、sinkと誤解され得る。




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[良い点] 間違おて青空文庫をあけたのかと思たけど、なろうだった。 才気煥発、博覧強記、質実一如、日米合従、絢爛深奥。賞賛を喚起せしむるは、文体倣模(パスティーシュ)を縦横しながらも随筆の照りとしての…
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