4話「魔王様、15分で無茶をする」
彼は今自分がどれだけ無茶なことをしているのか、できているのか全然理解してません。超危険です。
俺と対峙する天使男はいい顔をしていた。優越感に浸る獰猛な笑みというヤツだろうか。しかも悦入っちゃってるし。
じゃんじゃん俺から流入している俺の霊素? が美味しいらしい。ふーん。この世界だと魔力じゃなくて霊素って言うわけねー。
チューブ型のアイスみたいなそういう感じ?
吸っておいしい。溶ける前が絶妙だよね。
……余裕に見えるよね? いやぁこれが最初こそ苦しかったんだけど、正直吸われてる感覚はあるものの、ダメージが全然ないんだよね。
「あなたの霊素量は一体どれだけあるというんですか」
と言いだしかねない顔を相手もしているよ。
しかし、調子をこいて相手の様子ばっかり見ていたら天罰が当たってしまった。
足がガクッと沈んだのだ。
「ありゃっ?」
流石に甘く見過ぎたか。
「もしかして、私の攻撃がこの程度だと勘違いしましたか? 段階を上げて行きますよ」
そして、男の攻撃が勢いを増してきた。赤い光が急に俺の内部を食い尽くすように熱いオーラへと変貌していく。
おおお体ん中が温泉に入ったみたいに熱い!
「血行が良くなって……いやいやマジで熱い! 熱い熱い!」
「ふふふ、もっともっと上げて行きますよ、干からびて死んでしまうほどにね!」
お、おう……干からびるのか俺は……。魔王の干物……。あー、ちょっと、もうお灸据えられてるくらいな感じになってきた。
冗談はさて置いて力を吸えば吸うほど吸う力が増してくるようだ。熱いのも本当だ。
確かにどんどん体が重く、倦怠感が加速度的に加算されていく。ぐぐぐっ、とさらに足が沈み、腰を落としかける。弱い相手ならもうこれで干からびてしまってるかもしれない。
くそ、悔しいけどほとんどダウンに近いと言っていいだろう。
「フハハ、フハハハハハハ!! 魔王が膝をつくのは私の前だけだと決まっているんです!! ねえ、そうでしょう、カナタ!!」
あ、こいつう。ついに呼び捨てになった。言葉の上ではどう考えても弱そうなんだけどな。
でも、今の俺じゃ付け入るスキもない。
力……つまり霊素は無限にわき出て来るため、簡単にやられはしないとは思う。あくまでも思う程度だからなんとも言えないが。
これの制御がよくわからないな。天使男に流出していく力が一定に保たれていないのがその原因だろう。
そんな中、一つだけ気付いたことがある。揺さぶれるかどうかは自信がないが、試してみる価値はあるだろう。
「ちょっと今から賭けてみようかな」
「何にですか? 私の攻撃に抵抗できないのが良い証拠ではありませんか」
天使男余裕だな。
「お前のやってることはクーデターだぞ」
この俺の対応に天使男は眉を上げる。動揺……というより訝しむような表情だ。
「ふむ……まあ、そうですな。ですが貴方の負けはもう確定しています」
そのあと独りでに緩やかに頷く。勝手に自己解決してるし。
俺は落ちそうな足腰を叱咤する。言葉にすると歳取ったみたいな感じでイヤだな。
ここで負けると死亡確定だよな。じゃ、負ける道理なんてない。必ず突破口があるはずだ。
「良く聞けよ。俺が勝つ」
それを聞いた瞬間、天使男は苦笑した。
「何を言うかと思えば……私の魔法が作動した時点で貴方の負けは決定的ですよ。死になさい、カナタ!」
あ、やっぱここでも魔法って呼ぶんだ。なんか感動した。あと呼び捨てにすんな。
よし、じゃあ行くぞー。
「古来から吸収技を持つヤツには過食が効くと相場が決まってんだよ!」
俺は吸われる力の量を――こちらから強制的に増やした。
「ぬおっ!? こ、これは……!!」
天使男がテンプレにも叫ぶ。でもま、確かに勝利を確信した後に奇策を打たれると動揺するんだろうな。
俺にとっては地球にいた頃の知識でイケるが、相手にとっては奇策だろ。
倦怠感や貧血のようなモノは一瞬で吹っ飛び、流れていく力を操作して倍加させる。そう。力を吸われているからこそできることだ。
通常状態でここまで力を捻り出すと、爆発しそうな感じがあったからな。だから爺さんに攻撃をぶっ放しちまったわけだし。そう考えると魔王って難しいよな。力の欲求不満っつーか。
それにしても。
「ひょおおお吸われれば吸われるほど俺は楽になってくなー!! いやいやありがたいねー」
しかも流せば流すほどに段々力の制御の仕方がわかってくる。
空気を吸うのと同じような要領だったんだな、これは。
「なんだと!? こ、この力……カナタ様の……力の底が見えない!」
さきほどまで俺を覆っていた天使男と俺をつなぐ赤い光のバイパスだが、時折ドクン、ドクンと蠢いているようだった。そして、動きが活発な時に白く輝くオーラのようなものがバイパスの中を伝っていく。
それがミシミシいってるような感触が伝わってきた。
予感は的中というわけだ。でもま、霊素? が無限に沸いてくるような体だからこんなことができるんだろう。
「極限まで吸え!!」
「ぬ、ぬわああああああ!!」
するとバイパスが限界まで来たのか、ラスボスの断末魔のような声で叫び始めた。
あれ、これ本気なの? 本気の叫びっぽい。
「ぐわああああああああ!!」
お、おう……。流石にちょっとマズい気がするぜ。回復をしすぎると組織が壊れる。一応俺のことを様付きで呼んでるヤツだから、味方の可能性は高い。
実力の差を見せつければ何とかなるはず。恐らく目的は達しただろ。
俺は倍加させた力を緩やかに戻していく。すると少しだけ天使男の顔に余裕が戻ってきた。
天使男は俺の力を順調に吸いながら、肩で息をしている。おい、まだ吸えるのかよ。
タフだなー。
しかし、戦いが終わらない。
風船を割らないようにするためには、まず空気の流入を止めることが必要だ。
そして次は風船とポンプを切り離さなければならない。
そうじゃないと風船で遊べないからな。
「しょうがない、魔法陣ぶっ壊そう」
魔法陣=空気の流入口だ。そこを潰せばいい。
「な、何を仰っているんですか!? 貴方は!」
俺の発言はそんなにクレイジーなのだろうか。天使男の顔面が蒼白だ。
そうしたらやることは一つ。
魔法陣を俺の体から切り離して『ぶっ飛ばす』。
風船をポンプからムリヤリ取り外すためには空気の圧力をメチャクチャ上げればいいのだ。しかも中に向けてやるんじゃなくって、風船とポンプの周辺にだけそれをやる。
且つ、内部や入り口にキズをつけないようにする。
つまり、組織をガードしながら風船とポンプの接続面だけに空気を思いっきり送り込めば外れるはずだ。
我ながら酷い力技だと思う。充分クレイジーでしたすいません。
最初の段階だと余裕がなかったから思いつきもしなかったけどな!
んじゃ行くぞ。
「魔法陣、ぶっ飛べ!!」
俺はさっき体得した霊素のコントロール方法を使って単純に体全体から霊素を超大量放出する。
ポンプと風船の接続面を守って空気をムリヤリ放出させる!!
「おやめください、デタラメすぎます、カナタ様!!」
「いっけえええええええ!!」
「ぬああああっ!!」
魔法陣は一瞬で焼き切れ、その存在が崩壊する。風船=天使男は吹っ飛んで、前方でぐしゃっと嫌な音がした。
よし、破裂はしてないぞ。
しかし、ここで意識が覚醒してから15分でこんな怒濤の展開があるとは……。
と、そこで俺の腕の感触がなくなっていることに気付いた。
「あ、あれ? う、腕が……」
動かない。
すると、それを知覚した瞬間、周囲の風景が石像から元の空間へと戻っていった。
だが、俺の頭は真っ白だった。
毎日上げるのは大変ですが、特に序盤はできる限りそうしたいと思います。
できなくとも、週2回は更新したいと思っています。
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