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2話「魔王様、お戯れが過ぎます」

チュートリアル部分がしばらく続きます。

5/10手直ししました。

 俺は今、記憶を失った上に見たこともない城? の中にいる。

 そして城の一室は俺の壮絶なずっこけが原因で半壊していた。


 龍の爺さん曰く俺は「魔王」なのだそうで――。


 混乱をワゴンに敷き詰めて零れ落ちる理性とか常識だとかそんな物を必死にかき集めて何とか叫び出さないようにするので本当に精一杯なのだった。

 

 普通いいとこ勇者とかデショ……? なんでなんでなんでなん? なんで魔王なん!? 


 学校の屋上でずっと寝ていたかったよ!!


 多分コレ……アレだよ。夢なんだよ。すっげー明晰夢。

 よくあるよね、夢の中でもうこれ現実だろっていうレベルの夢。痛みとかも再現されちゃってさ。

 リアルと夢のどっちがどっちなのかっていう。

 よーし、じゃあもっかい寝れば学校に帰れるってことだよねーオヤスミー。


「カナタ様……今、なんと?」


 ふぐっ……それなのにいたいけな俺の睡眠を邪魔するバリトン声が耳に届いてしまった。

 

 強制イベントですか……。俺はそれでも現実に抵抗したくって目を半開きにして様子を伺う。


 龍の爺さんがあり得ないくらい面白い顔で俺を見ていた。

 いやーわかるよその気持ち。

 目の前にいた自分の主人が急に記憶喪失になってんだもんね。

 いやそら……まだ現実を把握していない爺さんには辛い話だよ。

 でもこんな顔されると逆に親近感沸くよね。血も涙もない魔族! って感じではない。


 っていうか今俺脳天を思いっきり地面に叩きつけたんだよな。

 そしてこの状態。


 部屋が半壊している。


 部屋っていうか多分王の間とかそんな感じの場所なんだろう。

 至る所に仰々しさが滲み出ている。


 魔王系の仰々しさだったのかー。


 確かにどこか毒々しい調度品の数々だけど、あんまりモノがないのに品が悪いとは思わない。

 豪華だけど質素……というか簡素って言ったらいいのかな?

 もしかしたらここではあんまり儀礼的なことは行われないのかもしれない。


 床は俺が頭をたたきつけた所からヒビが入り、それが扉部分まで続いている。

 窓はいずれもヒビが入り、装飾品の壺だとかは倒れて割れている。贋作とかであってくれお願い。


 対する俺はキズどころかぶつけた額さえ痛みを感じない。

 麻痺とかそういうものではなく、額になんか当たったかな? って程度のカジュアルな衝突だった。


 というか、体が圧倒的に軽い。


 そりゃ驚いて立ち上がればエビ反りもかますよ。


 軽いってのもただ軽く動かせたり筋肉によったりするものじゃなくて、根本的に俺を動かすエネルギーが異なっていると表現すればいいんだろうか。

 拳を振ればボクサーより早い拳撃を放てそうだ。


 しかもそれが無限にわき出てくるように感じている。

 胸がドクン、と高鳴る。


“使え”


「ん?」


“使っちゃえよ。その力をさ――!!”


 深い深い声が聞こえる。周囲を見渡すが、爺さんの声ではない。

 俺の中から声が聞こえる。やたらフレンドリーな感じだ。


 その前に爺さんの自己紹介を聞きたいんだけどな……。


“そんなこといいんだよ!”


「!?」


 直後自分の心臓が握られる ような感触があって、やたらイタズラをしたくなってきた。


「魔王様?」


 爺さんの声は今の俺には届かない。

 俺は少しだけ高鳴る胸を抑えながら龍の爺さんのおでこに向かってデコピンをしてみることにした。


 デコピンだぞー、ただのデコピンだー。


 アホみたいな話だよな? 爺さんまでの距離はまだ数歩分離れている。

 ここでデコピンをしてみたって届くワケがない。


 俺がデコピンを手で形作ると、龍の爺さんは急に血相を変えて吠えだした。


「カナタ様っ!! ここでお力を使うおつもりですか? どうなされたのですっ!!」


 力? 力なんて使うわけないじゃない。

 ただデコピンを爺さんのデコに向かって撃とうとしただけですよ。

 スカって終わるよそんなの。こっからだと距離が遠すぎるし。


 でも今の俺……ちょっとおかしいよな。

 自分の奥底から聞こえてくる声に従おうだなんて


“だから良いっつってんだろーがよー!”


 ちょ、ちょっと待てよお前誰なんだよ。なんで会話が成立しちゃってんだよ!


“こまけーこたーどーだっていーんだよ。とにかくぶっ放せ!!”


「魔王様!! また城を半壊させるおつもり ですか?」


 爺さんが龍の口を大開きに怒鳴っている。


 爺さんの迫力もかなり凄い。凄いが、今俺は脳内会話で手一杯だ。


 あーもーいーや! ぶっ放せって言ってんだからデコピンくらい別にいいだろ!


 しかし、俺の予想を遙かに裏切ったとんでもない事が起きた。


 デコピンを放った位置からバチィイッ!! っという紫電が放たれ、何らかの陣のような物が多数形成される。

 俺の視界が一瞬で光に支配された。


 陣はそれぞれがそれぞれ歯車のように高速回転し、その中央から一抱えほどもありそうな太さのレーザー砲が放たれたのだった。ギャルルルル! とかドルルルルル! みたいな光線技的な音出ちゃってる。


「なんだこりゃあああ!!」


 俺のデコピンはトリガーのような役割を果たしていたようだ。


 しかし、俺はどこかスッキリとした。いけないストレス解消法のようだ。


 龍の爺さんが戦慄に顔を歪める。おおー、モンスター爺さんも怖がるんだなー。


「魔王様!! お戯れをォオオオオオーー!!」


 だが流石にモンスター。

 龍の爺さんは力を入れたかと思うと、ボンッと服が盛り上がり、それを易々と破って超マッチョのスーパードラコニアンとでも言うべき超恐い爺さんに変貌する。言っておくが俺の背丈の二倍ほどに膨れあがっている。殴られたらひとたまりも無さそうだ。


 フシュルルルルと息を吐くだけでなんか火がチラチラっと見えるんだけど。


 恐い。


 爺さんの本性的な何かなのだろうか。覚醒だよねこれだと。


 すると、爺さんは至極ゆったりとした動作でレーザーを弾き返そうとする陣を空中に書き出した。

 多分あれが魔法陣なんだろうなあ。

 すげぇ超カッコいい。瞬間で多重に励起する魔法陣を目に……しかし俺はこう思っていた。


 動きがバカに遅い。

 なんかふざけてんのかな、と。


 しかもあの様子だとあのレーザー砲に当たって爺さんは死ぬという気配がした。

 

 俺は爺さんがワザと動いているんだと思っていた。

 だって魔王と話す位置にいる、あれだけ強そうな龍の爺さんなんだよ? 


 だったら今の俺程度の魔法? レーザー砲? みたいな攻撃なんか弾いて見せて当然だってね。


 でも、爺さんはいつまで経っても攻撃を打ち消そうとしない。


 っていうかあの魔法陣を見る限り出来ないと俺は察知した。

 何故だかわからないけど、そう確信した。


 間に合わないだろ、あれじゃ!


 しかし俺には何でこんな全てがゆっくり見えているんだ? 

 手を握ってみる。うん、普通だ。


 でも俺の放った攻撃はまだ爺さんには当たっていない。


 そこで俺は気付いた。爺さんが遅いんじゃない。


 俺の知覚速度や反応速度が早くなっているんだと。

 とにかく今のままでいったら爺さんは死んじまう。

 俺は何をしてんだ。

 世界の理を知りもしようとせず、正体不明の声に抗えず勝手にこんな事をしちゃって俺のバカー!!


 このまんまだと爺さんが死んじまう。それはいけない!


 そう思った瞬間、俺の中に何かがハマるように心臓がドクン、と脈打った。

 さきほどの心臓をわしづかみにされるような違和感とは異なっている。


「あれ?」


 すると瞳に映る世界が徐々に灰色になって、

 レーザー砲と爺さんがゆっくりとその動きを止めていき――


 完全に静止した。

早いうちに本筋に入りたいと思います!

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