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28話「勇魔激突-2」

 欲求不満を俺にぶつけにかかってるだけなんじゃないのか、と思わないでもない。

 改めて向き合ってわかったが、リザリスは途方も無い美人だ。

 猫のような少し釣り気味の大きな目に、ほっそりとした顎。

 その身に湛える蒼い魔力と、ふわりと舞うセミロングの金髪。

 あまりにも綺麗すぎて、幻を相手にしているようだ。

 やっぱり俺は昨日からずっと夢の中で、悪夢のような遊園地の中を一人で歩き回っているのかもしれない。

 はぁ。

 こんな時にはアイツに会いたくなるなぁ。

 ……。

 アイツ?

 アイツって誰だろう……。

「魔王……いざ、尋常に、勝負!」

「あー、もー、なんかちょっと引っかかってたのに。ジャマすんな!」

 リザリスが飛びかかってくる。ルカを片手にしっかりと抱きながら、器用なもんだよな。

 いや-、それにしてもどうしようかね。

 俺にはリザリスの剣が早すぎて目じゃ追えないんだよなあ。ハハッ。


 リザリスの剣がカナタの目前を通り過ぎる。カナタは必死の形相で腰を後ろに倒して避けた。

 その剣の鋭さはカリンに振るったときより何倍にも凄みを増している。

 今のを見たマゴッツは涼しい顔だが、カリンは今の一撃の時点で加勢をしたいと言い出しそうな雰囲気だ。

 カナタが歯を剥いてリザリスと距離を取る。

「ぬっがぁ! バカ、お前本当に俺を殺すつもりかよ!」

 対するリザリスは顎を上げてカナタを見下ろすような姿勢を取った。

 年齢相応の姿ではあるが、同年代の別の少女が同じことをしてもただ背伸びしているだけに見えるだろう。

 しかしリザリスにはそれがこの上もなく似合っていた。

「今の一撃、よく避けられましたね」

「お前の方がよっぽど魔王らしいよ」

 リザリスはその言葉に片眉を上げる。

「いえ、魔王が魔王であることに変わりはありません。それは歴史が証明しています。まだ魔王は……何も知らない。剣の露となっていただきます」

「露になったらもう死んじゃってんだろ!」

「ええい、魔王のクセにああでもない、こうでもない、めんどうな方ですね、とにかく私に斬られるのです」

「やだよ!」

 言葉とは裏腹にカナタはリザリスを見据えながら、腰を落としている。

「ほう、どちらにでも避けられるように、というのは中々賢明な判断です。ですが私はどこまでも追っていきますよ」

「……」

「集中していますね。いいでしょう!」

 リザリスはひとつ、踏み込んだ。

 その時点で両者の距離が数メートルあったため、カナタは少しだけ油断をしていた。

 リザリスは勇者だ。

 多対一や連戦も視野に入れ、さらにエフから魔王の殺害術も叩き込まれている。

 勇者として生まれ、素質もピカイチであった上に、世界でも指折りの実力者であるエフが教師役だ。

 であれば強くならない理由がない。

 偽神との戦いは相性の悪さで敗北したが、対魔王ということになれば彼女の戦闘力は倍増する。

 ギャンッ、と剣がカナタ右腕の裾を裂く。

「っ、マジかよ……!」

 彼女の剣閃はさきほどより更に鋭く、重くなっていた。


 カリンの羽音にマゴッツが振り向く。

「にゃあ、じいや……」

「なにかの、カリン」

「あれじゃにゃ、ご主人様負けちゃうにゃ」

「ふむ、そうかもしれないのう」

「じゃあ何で止めないのにゃ」

「実力を上げるには、時にこうした場を設けることも必要じゃからのう」

「あぶなっかしいにゃ。一応身体には前までの戦闘の経験が染みこんでるから、避けることはできてるにゃ。でもそれが何度続くかはわからないのにゃ」

「魔王様を信じて見ていればよい」

「でもさっき……」

「それはお主への方便じゃ。ワシは魔王様の勝利を疑ってはおらぬぞ。毛筋ほどものう」

 マゴッツは頬を釣り上げて笑う。


 一撃、二撃、フェイントを挟んでの三撃。

 右へ左へ銃のような速度で繰り出される剣閃にカナタの回避が徐々に雑になってきた。

「ちっ!」

 そしてついにリザリスの剣がカナタの動きを捉えた。

 頬を薄く一閃、カナタは熱いものを感じて飛び退る。

 カリンのアイスブレスを浴び続けて血の一滴も流すこともなかったカナタにダメージを与えた。

 いつの間にか息が上がり、カナタの心臓がドクドクと脈打っている。

 彼は自らの頬に手をやり、べったりと血が付いている掌を見た。

 偽神に刺された時は魔力が制限されていたが、今は制限がない。

 そこにリザリスの追撃があった。

「ぼうっとしていると、死にますよ」


 は? なめんなよ。

 てめぇ勝手に攻撃してきて死ぬだと?

 俺が何をしたっつーんだよ!

 どいつもこいつも勝手なヤツらばっかりだ!


 カナタは胸の奥が急に冷たくなるのを感じた。

 ふっ、と心の温度が下がっていく。


 そして頭のどこかで“バキャ”という破砕音が響いた。


 その瞬間、カナタの身体の中に、力の暴風が吹き荒れる。

 

「ぉおおおおおおおおお!!」


 周囲に砂埃が舞い上がり、カナタの身体を赤い光が包んでいく。


「のう、カリン」

「じいやの言った通りにゃ……第一段階をこんなにあっさり突破できるとは思っていなかったのにゃ」

「危機とはそういうものじゃ、カリンよ」

「そんなこといって本当は少し心配してたんじゃないにゃ?」

「少しだけのう」


 リザリスが自らオーラをまとうカナタを見て怪訝な表情になる。

「魔力量が更に増えた? ですがそんなものは見た目だけ!」

「あー、何か、ちょっと解放された気分だぜ」

 カナタはバキバキ、と拳を鳴らしてリザリスを睨む。


 二人の戦闘は第二ラウンドに突入した。

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