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1話「魔王様……魔王様!? 魔王様ァアアアアーー!!」

ここから主人公の話が始まります。


話数の表記を変更いたしました。

 ふと気付いた時には全てを失っていた。


 視界に入る物がそれまでの自分が見ていた光景と余りにも異なっている。

 龍の爺さん、広い部屋、そして仰々しい椅子に腰掛けてその龍の爺さんを見下ろしている俺。

 

 部屋には俺と爺さんの二人だけだ。


 俺の名はカナタ。よしオッケー名前は思い出せる。


 気付いたらこの状況だったんだよね。

 なんか途中に銀河みたいなものを夢見たような気もするんだけど、正直記憶に残っていない。


 さっきまで学校の屋上にいたんだけどさ。

 すこーんと冴え渡る目に優しい青空と雲とそして頬に当たる爽やかな春風に吹かれながら気持ちよく寝そべってたんだ。


 それが眠りに落ちそうな所でフッと目を覚ましたら何このファンタジーワールドっぷり。


 既に俺の頭はフリーズしている。

 龍の爺さんなんて単語がポンと出てくる事に何故か驚きも感じない。


 いやだってさ、物語に出てくる龍の爺さんそのものなんだもんよ。そりゃ、形容もそれしか出て来ないさ。

 俺は別に頭も良くないし、ちょっと運動が得意なくらいのどこにでもいる学生なんだからさ。


 すまん、充分混乱してるわ。


 普通龍の爺さんなんて言葉が出てくるはずないし。


 必死だな、今必死だわ。ほつれた糸をこより集めるように必死だわ。


 さて、俺が現在進行形で学生なのかどうかはこの際置いとこう。

 どうも現実はそれを許してはくれないようだ。


 ここに来た瞬間、最初夢かな? 明晰夢かな?

 と思って組んだ足の踵でもう片方のスネを蹴ってみたんだけど、普通に痛かったし。


 ということはこれは現実。

 しかも目の前に広がる光景は俺が行動した結果勝ち取ったものに見える。

 どう考えても豪華な城、そして龍の爺さんが俺に向ける敬意、玉座だろう座ったこともない感触の凄い椅子。

 全ての情報を元に考えてみると、積み重ねでしかあり得ない光景じゃん。

 龍の爺さんに至っては俺にかしづかんばかりだよ。むしろぬかずいちゃってるレベルだよコレ。

 へへー魔王様って感じ。魔王はイヤだ!!


 俺の推測の中ではこう。

 

 記憶を失う前のさっきまでここにいた俺はひとかどの人間だった。

 爺さんと何か話し合ってたんだろう。その途中、いきなり記憶を失った。


 んで、ここは地球じゃない。目の前にいるのはどう考えても人の形をした龍だ。

 ドラゴンだ。憧れのファンタジーだ。しかも状況から察するに俺はちょっとした権力を持っているみたい。


 勇者とかだったらいいよね! 


 魔王とか邪神だったら卒倒するよ……。

 

 悪事ってあんまり好きじゃないんだよね……。いや、誰だってそうだと思うけどさ。


 うーん、記憶喪失なのはもう疑いようがないな。何を見ても全然思い出せない。


 謎が謎を呼ぶミステリー。俺はあんまり頭が良くないからもし記憶なんかを試される瞬間があったら間違いなくアウトであろうこと請け合いだ。


 さて、そろそろ龍の爺さんが俺と会話のないことを段々おかしく思い始めてるようだぞ。ちょっと不審がってる様子が垣間見える。


 爺さんを見てみる。背は俺の胸くらい。

 ずんぐりむっくりしているが太っている、というより種族上そうなるという雰囲気だ。

 そんな爺さんは見た事もない赤い魔道士のようなビロードのローブ、賢そうなモノクルを左目に付け、蓄えられた髭は銀色で下の方を青いリボンで縛っている。

 リボン? ああ、そういう文化なんだろう。

 それはいいとして、闊達な雰囲気だ。

 テレビか何かで見た政治家のような印象がある。

 図太くたくましく、そして自らの意思を通すような意思力を感じる。

 力強く生える二本の角がそれを肯定しているように思えた。

 まあ、幾分かの腹黒さが見受けられることは否めないだろうけどね。


 古狸みたいなこの龍の爺さんには会話で主導権を握ろうとかしてもダメだろうなぁ。

 でも、爺さんは俺に対して心を開いているように感じられる。


 そんな目で俺を見ている。


 視線の意味する所は、仲間だろうか。

 いや……もっと深い何かがある。

 自然とそれがわき出ている。


 チラッと意味不明の罪悪感が胸をよぎった。

 無自覚に何かを奪い取ってしまったような、どこかバツの悪いこそばゆさのような。


 ほんの少しだけ義務感に駆られる。

 

 まだ俺に話かけるなよ龍の爺さん。

 俺の中でまだ方針が固まってないんだ。っていうか龍の爺さんってなんだよ今更恐くなってきたよ! あの口であんぐりやられたら多分SO☆KU☆SHIだよ?


 今からこの爺さんと喋らないといけないんだぜ。

 

 ぶっちゃけ完全に混乱の大セール中だよ。

 なんとかマトモにモノを考えようとしてもそれがぽろぽろ零れていくような感じがするんだ。


 混乱と書かれた木の板がワゴンに乗って大セールされている状況が頭に浮かぶ。

 しかも誰もそれを買ってはくれなくて、どんどん追加の混乱板ばかりがワゴンに次々載せられていくのだ。

『追加の混乱板入りまーす!』

『よーしそこに……てんこ盛りにしてくれ! はみ出ても構わねーから。どーせワゴンだし』

『わかりぁしたー!!』

 って、やめろ。

 これ以上俺を混乱で満たすんじゃない。

 どんな事を言われてもなにがしかの動揺をしちゃうだろうが!

 あっ、ワゴンからはみ出た! チクショウ誰か買えよ!! 買ってくれよ!! 混乱板!!


 こんな可哀想ないたいけな学生を捕まえてドッキリとか勘弁なんだよ。

 いや、わかってるよ。こんなものがドッキリであるはずなんかないということはね。

 時間は待ってくれない。

 俺が記憶を失ったのと同じように、迫り来る事態が優しくしてくれるはずなんてないんだよ。 だって時間は誰にでも平等に流れるんだから。


 だから、時は残酷だ――


 なんて、ちょっとカッコつけてみた(笑)


 あー、そんなこんなでメッチャ考えてるうちに爺さんが話しかけてくるぞ。

 これ最早戦闘態勢だよね。


 よし俺、取りあえず耐えろよー。


 何を言われても動揺を顔に表わしてはいけない。

 味方の可能性濃厚な龍の爺さんに俺の状態を伝えられるかどうか探るんだ。


 それがこの場における最優先事項だ。

 最初のミッションなのだ! 


 ただし自分が魔王だった場合は卒倒する。


 そしてついに爺さんの龍のアギトがかぱりと開いた。


 うげえっ、おいおいリアルすぎんよ超恐いんですけど……。

 いやホラ、牙! めっちゃ光ってる。天井のシャンデリアの光が牙に反射してんですけど。 口ん中ピンク色。舌……長ッ!!

 物語に出てくるにこやかな紳士的な龍族みたいな。

 そんなんでも実際合ってみ? かなり恐いから!!


 俺は始終クールな顔を貫き通しているハズだが、実際できてるかどうだかわからないな。

 あの牙で噛まれたら余裕で持って行かれるぞ。


 何が? 考えるのも恐いな。


 だが、俺の目は龍のアギトをしっかりと捉えた。

 彼と喋るという現実から目をそらしてはいけない。

 

 だってこれは全ての最初なんだから。あ、今の俺にとってはってことね。


 最初の戦いを逃げたりなんて、したくない。

 いや会話だよ。会話だけどこれは間違いなく……俺の中では戦いなんだよ。


 そして開け放たれた龍の口からかなり深いバリトン声が響き渡った。

 声が奇妙な反響をすることでダブルに聞こえてくる。

 ああ、声帯が違うのね……。


 しかしそんなもんで気を紛らわせようとしていた俺は爺さんの言葉に目を剥くことになってしまうんだよねぇ……。


 っていうか卒倒するんだよね。


「魔王様、カナタ様……。如何されましたかの?」


 魔 王 様 ! ?


 ふ わ ― っ ! ! キ タ ― ! !


 一番聞きたくなかった言葉キター!! 


 もう無自覚に立ち上がっちゃうよね。

 椅子からポーンと。まるで樽にナイフを刺す黒ひげナントカ一発みたい。


「俺魔王なの!? 俺、魔的な何かなの!?」


 そんな感じで勢いよくエビ反りに立ち上がってしまった俺は盛大に椅子から転げ落ち、全く 気付かないうちに卒倒をブチかましたのだった。

 ガラガラガッシャーンというギャグ的な何かとしか思えない擬音がとっちらかされる。


 さらにゴロゴロと玉座から転げ落ち、足元に段差があった事に気付かず蹴躓いて加速し、思いっきり脳天を地面に叩きつけてしまった。


 ずごーん!! というはた迷惑な超音量が周囲一帯に響き渡る。


「ま、魔王様、魔王様!! カ、カナタ様ァアアアアアーーーーーーーーーッ!?」


 その瞬間、俺の脳天が激突した広間の床はビシリビシリと割れ目が入り、ぐわらぐわらと部屋が盛大に揺れまくり、シャンデリアはアホみたいにがしゃがしゃと笑いたて、窓はばりばりとヒビ入り、置いてある限りの調度品がばたーんばたーんと倒れる。


 比喩ではなくガチだ。頭に割れた天井のカケラがパラパラと零れ落ちてくる。


 詰まるところ部屋は――半壊した。


 もくもくと砂埃に塗れた龍の爺さんは驚き過ぎたようで完全に固まっていた。


 タチの悪いコントのような光景が、絶対にあってはならない場所で起こってしまったようだった。


少しずつ話数を重ねて行きたいと思っています。

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