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26話「幼児嫉妬」

「ご主人様、何事にも限度というものがあるだにゃあ」

 カリンは氷から脱出し、所々凍る自らの身体を温熱風で溶かし、乾かしていた。

「ボクの可愛い身体にキズがついたらどうするにゃ」

「いや、んなこと言われても……魔力の説明は」

 カリンはずいっとカナタに顔を近づけてくる。猛禽類の顔だが、何故か親しみが沸いてくる。

 カナタはカリンのくちばしをつんとつついて労った。

「にゃん! にゃ、にゃめにゃよ~! ご主人様!」

「はいはい」

「魔力の説明はあそこで火を使ってくれてたらしたのにゃ。でもなんかもうそういうの全部吹っ飛ばして凍らせてきちゃったにゃあ。もうご主人様には魔力についての説明にゃんかは必要ないにゃ! ぷんぷんだにゃ!」

 そんなことを言いながらも、カリンの尻尾は喜びを表わすかのようにふるふる振られていた。

「いやぁ……お前はいい教師だよ。一回でコツがつかめたからな」

「な、にゃにをいってるにゃ……。ほめてもなにもでないにゃ」

 カナタもまんざらではないようで一人と一羽で息の合った会話をしている。

「なにやら胸がざわつきます」

 彼らの会話を離れた位置から見ているリザリスがぽつりといった。まさに憮然としている、という言葉が似合う冷気を放つ仏頂面だ。

 ルカゴッズも頬を膨らませてカリンを見ている。じとーっとした瞳だ。

「ぱぱ……あのとりさんのほうがすきなの?」

「断じてそんなことはありません」

 リザリスは膝の上のルカをふきゅ、と抱きしめる。ルカはにゃん、と鳴いた。

 だがすぐに今度は唇をとがらせる。頬も唇もつやっつやだ。

「とりさんキライ」

「なるほど、ルカを放っておくパパは註滅しないといけません」

 リザリスは片手にルカを抱きながら、右手でペトリュスをしゃらりと抜いた。

 マゴッツが突然の行動に慌てふためいてリザリスを抑えようと動く。

「り、リザリス殿!? なにをするおつもりですか」

「魔王討伐です」

「いけません、いけませんぞお!! なにをどうすればこのタイミングで魔王様を討伐などと……」

 リザリスはマゴッツの方など振り向きもせず、何かの仇のようにカリンをにらみつけていた。

「娘がいやがっているのです! それだけで十分なのです!」

「じゃから、なにがですかの!」

 リザリスはいうが早いが抜刀した後、すぐに高速移動に移った。

 砂の地面にいくつもの足跡が一瞬でできあがる。もちろん姿は常人でとらえることはできない。

「こまった勇者じゃのう」

 マゴッツは頭をかいて魔法陣を編んだ。両手で複雑な文様を書いていく。勇者に向けて効力を発揮する魔法となると、詠唱を必要とする高度なものに限られていた。

「留まる者の病める行進に炎の縛鎖と緑の円環、迫り来る彼の者の歩みを止めよ! ダブルリンク・スタンッ!」

 マゴッツが魔法を唱えると、書き出した魔法陣が色を為し、早くて捉えきれないリザリスの現在位置を正確に割り出してそこに炎をまとった蔦が出現した。

 リザリスは進行方向に炎をまとい出現したその蔦を見て、一瞬足を止める。すると炎の蔦は格子状に姿を変え、リザリスを捕らえようと襲いかかってきた。

「足止めされてしまいましたか……流石は魔界の宰相殿。ですがっ」

 リザリスはペトリュスで蠅でも追い払うかのように炎の蔦を一閃する。

「こんなものです。ルカに当たったらどうするつもりだったのですか」

「まま、るかはべつにいたくないなの」

「そういう問題ではありません」

「ちがうの、あたってもいたくないなの」

「もしです、もし当たったらどうするかという話なのです、ルカ」

「むぅ、いたくないなのにぃ!」

「ルカ、行きますよ!」

 リザリスは再び聖剣を握り出すと、最初のスピードよりさらに速度をあげた。

 カナタは、尋常ではない早さで手に聖剣を握り、鬼気迫る表情で迫るリザリスを見て首を傾ける。

「なんでアイツ聖剣抜いてんだ……?」

「敵意を感じるにゃ!」

「敵意?」

 ピンと来ないカナタだが、カリンは既に身構えていた。

 マゴッツが遠くで二つ目の魔法陣を編んでいるが、発動には間に合わない。

「魔王覚悟ォー!!」

「は?」

 リザリスは跳躍し、剣を振り上げていた。

 問答無用の攻撃にとぼけた顔のカナタを押しのけ、前にカリンが割って入った。

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