25話「魔法入門」
避けようとするヒマもなく、カナタに直撃する暴風。
冷たい風だと思ったのもつかの間、氷の刃が乱舞する吹雪と化していた。
既にカナタは自分の前で両腕を十字に組み、アイスブレスに耐えるしかなかった。
カナタの足元がブレスの破壊力で抉られていく。それほどの威力だ。
きっと高校生の時のカナタでは、こんな攻撃なんて一瞬たりとも耐えられなかったに違いない。
「冷たっ……おい、これ冷たいなんてもんじゃねーぞカリン! 氷の刃がガンガンぶつかってくるんだけど!」
カナタが悪態をつくも、カリンは返事をしない。
一撃一撃はそれほどではなくとも、守った腕が徐々に痛みを感じ始めていた。見れば、ところどころ氷ついてさえいる。
氷の刃が風に舞い、代わる代わるカナタを切り裂こうとしていた。
氷の乱舞に視界は奪われ、吹きすさぶブレスに聴覚もかなり影響を受けている。
「くっそ、これに対応しろってことか……。にしても何も聞こえねーな。攻撃の切れ目でもあれば別かもしんねーけど」
確かにダメージはそれほどでもない。
だが動くことができない程度にはこの攻撃は重かった。
フラゾエルの魔法に耐えた昨日を思い出すが、攻撃の質自体はあちらのほうが上だ。
氷に対抗するには火……。
マゴッツは昨日、俺はイメージするだけで魔法が使えると言ってたな。
火を、ぶつけて相殺してみようか。
カナタの身体が薄紅く光る。魔力の片鱗だ。
座って後ろで見ていたマゴッツは片目を見開いた。
「ほう、流石ですな魔王様、もう対策を練られましたか」
マゴッツに眠そうな目を向けるリザリス。
「当然ではないですか? 昨日の魔王はあんなものではありませんでしたが。何せ私の命を救ってくださいましたし」
「魔王様は慈悲深い方なのです」
うんうん、と頷くマゴッツだが、リザリスは話を合わせるつもりはないようだ。双方とも自分の思ったことを口に出しているだけだった。
そんな二人をそっちのけにして、リザリスの抱くルカゴッズは愛らしい顔を曇らせている。
「ぱぱ……よわいの?」
ルカゴッズがぽつりと呟いたその言葉は離れているカナタにもきちんと届いた。
ちょうどブレスの切れ目だったのだ。
リザリスがそんなことはない、と言っているが、大した効果は望めなさそうだ。
ルカゴッズはつまらなさそうに見つめている。ぱぱーがんばってよー、という情けないものを見る声が聞こえてきそうだ。
うわ-、よりにもよってこのタイミングで……聞こえたぞ……ルカ。
なんだ、格の違いとやらを見せてやればルカの気を引けるのか。
かといって怒ると恐いって言われるし……。
あっ、閃いた!
カナタは何か自分の中に響くものを見つけたらしい。
火の魔法を放つつもりだったのをやめて、今度は身体に冷気をまとっていく。
蒼い光だ。リザリスは自分の持つ魔力に似た光を纏うカナタをいつの間にか見つめていた。
「カリン、冷たいけど、ガマンしろよ」
カナタのイメージしたモノは氷だった。
火で打ち消そうとしてもよかったのだが、風が懸念材料だ。
火で氷を溶かすことが出来ても、向かってくる風に火がまかれれば結局自分がダメージを負うことになる。
一瞬その場凌ぎになっても結局元の木阿弥だ。
なら、相手の力を使って何かができないかと考えた。
まず、広範囲に水をぶっかける。
カナタは顔をずっと守っていたが、少しなら構わないと左手だけを前に向けた。
「水! プール一杯分くらい出て来い!」
すると、カナタの手の平から魔法陣が出現した。それほど大きいものではないが――。
「げげっ、まずいだにゃあ!」
カリンはそれを見るとにわかに焦り、ブレスの勢いを上げて対応した。
しかし、カナタはもっと後に来るだろうと思っていた反撃のチャンスにガッツポーズをし、右手を差し出す。
それと同時にまさしくプール一杯分……より遙かに多い水の塊がブレスとカリンに威勢良くかかる。
「にゃにゃあああ! こんな水程度、全部吹き飛ばすにゃっ! アイススクリーム!」
カリンはそれまでカナタを傷付けないように使っていた技を切り替えて、氷の弾丸と打ち出し始めた。
激しい氷のガトリングが殺到する水の壁に無数の穴を開けていくが、それでは水が拡散するだけだった。
「にゃあああ! ちょっとこれはやばいにゃあ!」
そしてしとどにカリンは水を引っ被った。すでにカナタが何をする気か分かっているのだろう。
「よっしゃ! 凍れ!」
カナタは右手に込めた凍れ、という命令をそのまま打ち出す。
さきほどより大きな魔法陣が出現すると、勢いよく氷の塊が吐き出された。それが水に着弾すると、発射された水全体が一瞬で氷へと姿を変えた。
カリンも氷像と化している。
「うわぁ、ぱぱすごーい!」
それを見たルカゴッズの言葉で、カナタは胸がふっと軽くなった気がした。
同時に無意識に誇らしくなって、手をぐっと突き上げる。
「うし。取りあえず魔法の使い方はちょっとわかったぞ」
「ちょっとなの……」
「ちょっとなんだ、スマン」
微妙な空気が流れた。
「出すだにゃ! 出すだにゃあ!」
そしてカリンは氷の中で怒っていた。
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