24話「特訓開始」
カリンがにゃあ、と鳴いて再びカナタの肩に戻ってきた。柔らかな羽をしまう前にカナタの頬をふわりと撫でる。
「でも、きちんと休まなければならないにゃ。特訓前にはしっかり休養するものにゃ!」
「さすがにちょっと寝ないとな」
今日は身体的、精神的なダメージや疲労がかなり溜まってしまった。
レガンシスに飛んできて一日。なにもわからないのにいろんなことに巻き込まれてしまった自覚がある。
カナタは自らの魔力量によって姿が変わるベッドに腰をかけた。
固い。
「はぁ……」
「どうしたにゃ、ご主人様」
「いいや、きっと前の俺はこんなことで悩んだりはしなかったんだろうなってな」
カリンはくいっと首を傾げる。猛禽類の鋭角的な動きだった。
「ご主人様はいつもそんな感じにゃよ? 気にすることなんてないにゃ。いつもボクの前ではくよくよしてたにゃ。むしろご主人様らしくてボクは気が楽になるにゃよ」
カナタはベッドに背を預ける。床に寝転ぶのよりは遙かにいい。そうしたらカナタは急に眠気を優先したくなってきた。
「そっか。まぁいいか。寝るわ。オヤスミ、カリン」
「オヤスミなさいだにゃあ。ボクは鏡に戻るにゃ!」
そしてカリンはバサバサと羽音を立てて鏡の定位置へと戻り、彫刻に戻った。血の通った鷹から徐々に黒くなり、完全に元の物言わぬ像になる。
「ふわー、ねむ……」
カナタは部屋の灯りも消さず、ベッドにもたれかかるとシーツもかけずに眠ってしまった。
「にゃー! にゃー! にゃー!」
「うお! なんだ!?」
陽の明るい朝。
ものすごい大音量で猫の鳴き声が聞こえた。
部屋の中でするんじゃなくて、外でわんわんと放送されているようながなり声だ。
「か、カリンの声?」
「んにゃ! おはようだにゃ、ご主人様」
カナタが鏡の方を見ると、カリンは鏡に収まって器用に声を出している。
「どういうことだ?」
「国営放送だにゃ! レガンシスはボクの声で起きるんだにゃあ~!」
おいおいすごいなそれは、とカナタは思った。
「思った以上にカリンは国に貢献してるんだな」
「そりゃそうだにゃ。ボクは魔界の中でも相当の実力者なのにゃ」
「へぇ」
カナタはそれほど興味が持てなかったようで、洗い場で歯磨きを始める。
「ちょ、ちょっと無視しないでにゃあ! 特訓するんだから強いに決まってるにゃあ!」
「うん。そっかー」
この世界にもハブラシと歯磨き粉はあるようだ。
「うっげ、苦い」
緑色の歯磨き粉はもんのすごく苦かった。
魔王城ともなると闘技場が併設されているようで、今カナタは朝食を済ませ、闘技場へと足を伸ばしている。
「ほえー、でけー」
対角線上の先がぼんやりとしか見えない。
勿論強化された身体だから細かな部分も仔細に見ることはできるのだが、普通にしているとその巨大さにただ驚くだけだった。
競技場ほどの大きさは確実にあるな、とカナタは思った。
カリンは窓枠から解き放たれ、ばさりと悠然に闘技場の宙を舞っている。
ここにはカナタとカリン以外にマゴッツ、リザリス、そしてルカゴッズが来ていた。
ルカゴッズは眠そうに目を擦っている。
「ん~。ぱぱだ-」
「おう、おはようルカ」
カナタはルカゴッズを抱こうとリザリスのところまで歩いていった。
だがルカゴッズはカナタが手を伸ばすと首をふい、と逸らして抱かせてくれない。
「ルカ? 朝の挨拶は?」
「いま、したよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ぱぱこわいから、だっこ、ヤ」
「そ、そう……」
そうなるとムリヤリ抱くこともできない。
しょうがないから泣きそうになりながらもカナタは闘技場の中心へと歩いて行った。
「魔王様ー! ここが頑張りどころですぞー。ルカ様にいいところを見せなければなりませんな」
マゴッツの応援がいやに染みた。昨日毒を持ったヤツだとは思えないほどだ。
「ルカ、きちんと見るんですよ」
リザリスは既に母親同然だった。何か進化でもしたのだろうか。
カナタは教師役のカリンを視界に収める。
「カリン、よろしく頼む」
「わかったにゃあ!」
バサリ、と一際大きな羽音を立ててカナタの前で止まる。普通の鷹ではできないだろう動きにカナタは驚いた。
「まず、魔力の説明からいくにゃ」
「お手柔らかに頼むよ」
「まず、その身で受けてみるにゃあ! アイスブレスを撃つにゃよ!」
「おい、ちょっと待て! 説明っていってて撃つってどういうことだ!?」
カリンの目がギラリと光る。
「身体に説明するんだにゃあ!!」
いうが早いが、カリンはくちばしを開けて、そのままブレスを放った。
風と雪を孕んだ暴風がカナタに殺到する。
お、おい、ウソだろ?




