22話「寝室問答」
カナタの寝室は魔王城のちょうど真ん中くらいの位置にあった。
寝室に着くまでも目をみはるような動く彫像やらモンスターがたくさんいたが、カナタを見るとそろいもそろって臣下の礼をとっていた。
工芸品として置かれている彫像まで礼をするというのは逆に少しカナタを不安にさせたが、ここは魔界なのだ、と自分にいい聞かせた。
しばらく歩いていると案内役のマゴッツが黒い金属で作られた重厚な扉の前で足を止める。扉はそれほど大きくないが、他を圧倒するような気配が漂っていた。
今ここにいるのはカナタとリザリス、ルカゴッズとマゴッツの4人だけだ。フラゾエルはアレファロで会議に出席するために戻っていった。
マゴッツがうやうやしく扉の前に立つ。
「こちらが魔王様の寝室にございます」
「そ、そうなんだ……」
カナタは威圧感を出している扉を前に若干今日の安眠が心配になった。
「趣味がいいとはいえませんね」
「なの!」
と、リザリスとルカが返事をすると、カナタは凹んだ。今の自分が知らないとはいえ、これを作らせたのは自分のはずなのだ。
正直、自分でも趣味が良いといえる扉ではないため、ルカに否定されたのが余計身に堪える。
「俺の趣味じゃないんだがな……」
するとマゴッツの目が光った。
「そうですな! この扉は私の案にございまする」
「本当か?」
「はい。どうですかこのルルゴニア式魔王扉は!」
心から自らの文化をアピールするマゴッツにカナタはこういった。
「そんなことはどうでもいいから早く寝かせてほしい。さすがに俺も眠くなってきたからな」
「ルルゴニア式に反応してくだされ魔王様! これでもカナタ様のご意見をいただきましてまこと地味な形に仕上げたのですぞ!」
マゴッツがカナタにすがろうとするが、カナタはむしろその必死さが理解できなくて引いた。
眠い目を擦りながらカナタはルカに手を差し出す。
これからいう言葉は親子にとっては当たり前の会話になるはずだった。
寝室=娘と一緒に寝るだろう、という考えになるカナタである。
「よし、じゃ、ルカゴッズ。一緒に寝るぞ」
「いやなの」
ルカは無表情で顔を背け、カナタの提案を拒否した。かなり早い否定だった。
カナタは言い方が悪かったのかな? と思って、他の言い回しを探す。
「おいおい、ぱぱと一緒に寝ようよ、ルカ」
「るかはままとねんねするの」
といってルカはリザリスにむきゅーっとしがみついた。ふわふわの髪の毛がリザリスの鎧に押しつぶされている。鎧の表面は冷たいはずだが、気にならないようだった。
「ふふ……ルカは良い子ね」
こんな時だけはリザリスも鉄面皮を剥がすようだ。
だが、どこかに勝ち誇ったような雰囲気を感じないでもない。
カナタはちょっとイラっとした。
「いやいや……ちょっと、え? ルカ、一緒に寝ようよ~」
と、今度は情けなさを装ってみる。
「いやなの。ぱぱこわいの」
しかしルカは態度を曲げなかった。
「なんでさ……パパは一緒にルカと寝たいだけなのに……」
「その言葉、今の部分だけを切り取りますとかなりいやらしい男ですぞ魔王様」
「お前はちょっと黙ってようかマゴッツ」
「魔王様ァ……」
とはいえ、ルカは本当にリザリスから離れたくなさそうだった。
まぁ、こどもといえば母親が大事だ。
カナタは潔く折れることにした。
「しょうがないな、ルカ。今度一緒に寝ような」
すると、顔を背けがちだったルカがカナタへ視線を戻した。
「こんど……?」
「ああ。今度だ。もちろん、怒らないからな」
「うん」
ルカは不安そうな顔でリザリスを見上げた。
「私としては魔王と寝るのはやぶさかではないのですが」
「それは断固拒否する」
「にべもありません。仕方ないのでルカと寝かせてください」
「わかった。じゃ、マゴッツ、二人に寝室を用意してくれないか」
「おお! カナタ様、記憶をなくされる前の魔王様っぽかったですぞ!」
マゴッツはうんうんとうなづいた。
「いや、俺は俺だから。とにかく頼んだぞ」
マゴッツは臣下の礼をとり、カナタの命を受けた。
しかし、誰にも聞こえない声でマゴッツは呟いた。
「ですが、本心を言えば……勇者でもいいから魔王様とさっさと実子をなしていただきたいのです」
魔王の嫁探し問題は本当に急を要していたのだが、カナタもリザリスも、本当のことはまだ知らなかった。




