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20話「命名会議」

「さて、そうなると稚児殿には名前を付けなければなりますまい」


 カナタとリザリスはあの後に魔王城に戻った。

 リザリスが斬ったモンスターはみな峰打ちだったそうで、実はカナタを守っていたということで手打ちとなった。

 本当は騎士のオッサンが出てくるまで出来レースだったんじゃないか、とカナタは思ったが完全に黙っていた。


 そんなことよりも幼児のほうが大事だったのだ。


 彼らは今、城に併設されたカフェにいた。

 どうも記憶喪失の間にカナタが命じて作らせた場所だったらしく、当時の日本のカフェを模して作られていた。

 気安い空間ではあるが、ここに来られる者は限られているというロイヤルな空間だ。もちろんカナタは顔パスだし、リザリスも格としては問題なく通ることができた。

 奥にカウンターがあり、カフェスタッフが所狭しと動いている。魔王がここに来ることが滅多にないため、てんやわんやなのだった。

 もちろんカナタはそんなこと少しも気にすることはないし、そもそも現状を把握していないのだが。

 大きなテーブルがいくつも並べられており、壁は一面ガラス張り、そして覗くのは星の瞬く夜空だ。

 外から巨大な月がこちらを見ており、今更ながらカナタはその月の大きさにひそかにビビっていた。そしてリザリスはカフェに目を輝かせていた。


 カフェにいるのはカナタ、リザリス、幼児、フラゾエル、マゴッツとカフェのスタッフだけだ。

 そんな中でのマゴッツの言葉だった。


 実はカナタが帰ってきて経緯を聞いた直後から体をぶるぶると震わせ、顔を紅潮させていたのだが、おじいちゃんは頑張った。自らの主に引かれないように頑張った。

 今日のマゴッツが妻に送るメールはこんなふうになる予定だったのだ。


 拝啓、草食すぎる魔王様がついに結婚を決意された。敬具

 追伸 素性のわからぬ養子もできそうで魔界史上最高の慶事になりそうだ。


 しかし、マゴッツが冒頭の言葉を聞くと、皆押し黙った。

 特にフラゾエルは心なしか……というよりほとんど死人といっても良い青い顔をしている。

 カナタは皆の言葉を聞いてから発言しようと思っていたし、リザリスは何か別のことを考えはじめていた。

「カナタ様……本気なのですか? その子が、本当に勇者との間の子なのですか……」

「フラゾエル、ありえないから。お前は今日初めて会ったヤツと結婚できるのかよ? っていうかお前自身は結婚してないのか? 本当の俺の年齢と大体同じくらいなんだよな」

 そのカナタの返しにフラゾエルは喜んだり青くなったり色々な表情をしてみせるが、何も答えなかった。

 ちなみにマゴッツはどこかでカナタがそう言うであろう可能性を考えていたらしく、少しだけ落ち着きを取り戻してきていた。

「追伸は消えましたな」

「何か言ったかマゴッツ」

「いえ」

「それにしてもフラゾエルは本当に気分屋だな……ハァ」

「ぱぱ、つかれちゃったの」

「んー、大丈夫だよ俺は」

 幼児はさっきからカナタの膝の上が定位置になって思い思いに動いていた。カナタの顔を突っ張ってみたり、挟んだりしている。一応きづかっているようだが、その分カナタの顔が面白いことになってしまっていた。

 その様子を見てフラゾエルは再び意気消沈した。

「で、リザリスは黙ってると。じゃ、ちびっ子、お前の名前を決めるがいいか?」

「おなまえ!?」

 カナタが名前のことを持ち出すと、幼児の食いつきが突然よくなって目をきらきらと輝かせた。

「あー、こんな顔をするならもっと早めにお前の名前を決めてあげればよかったなー」

 といってカナタは再び幼児を自分の腕の中に包んだ。

「むきゃーっ!! ぱぱーっ」

 幼児は喜んでいるのか怒っているのか、とりあえず奇声を発していた。

 マゴッツはどちらにせよ、そのカナタと幼児のやりとりを見て感極まりそうになるのをこらえていたが、職分は全うしなければ、と心を鬼にしていた。

 このおじいちゃんは涙腺が短いのだ。

「よいことですな。ではお名前を決めましょう」

「お前が仕切るな」

「申し訳ございませぬ。ですが爺めのお気持ちも酌量くだされ」

「爺さんは本当なら俺に殴られていてもおかしくない」

 カナタは冷静にテンションの高いマゴッツに釘を刺した。

 おじいちゃんは今思い出したとばかり、心臓が口から出てきそうな顔をしていた。

「はっ……!」

「マカロンは苦しかったぞ」

「大変差し出がましい真似をいたしました。ワシは意見を賜り次第発言するように心がけたいと存じまする」

「そうしてくれると助かるかな。さてじゃあ爺さん、早速だけど、月っていうのはこの世界ではなんと呼ばれるんだ?」

「月……でございますか? ああ、ライブのことですな」

 マゴッツは夜空の中でひたすらにその存在感を主張する星を仰ぎ見る。

 少し暗いカフェの中にライブの青白い輝きが落ちてきていた。

 カナタはこの世界に来て、この映像が一番幻想的だと感じていた。自分より大きな存在がこうして見ている以上、いくら自分がこの世界の神よりも魔法が使えようとも、全く増長する気にならない。

 もちろん自分の実力を知らないということも大きな理由ではあるのだが。

 気づけばリザリスもカナタの隣でライブをじいっと見つめていた。

 彼女の横顔の、とりわけ産毛が形作る輪郭に、青い仄かな輝きが乗り、見たこともない化粧のように思えた。 

「ライブ……っていうのか、この月は」

「はい。そうでございます」

「ん? ってことはこの星にも名前があるのか?」

 放心気味のフラゾエルがその言葉に反応する。目が死んでいる。

「はい……我らの住む星の名はウィーグラントと言います。古来より生まれし彼方の神という意味ですな」

「ふぅん。そういえばさっきからいくつか大きな星が見えるんだよな。圧倒的にデカいのがライブだってのはわかった。他のそれより小さな、それこそ俺のいた世界の月ってくらいのも二つ三つ浮かんでるんだ」

 俺のいた世界の月、という言葉にリザリスがほんの少し反応を示した。

「魔王のいた世界の月……何故か不思議なものを感じます。そうですね、この世界では星を指してルカ、と言います」

 ルカ、という言葉がカナタの心の中にしっくりと来た。

 

 ルカ。

 ああ、いいな、ルカ。


「よし、じゃ、ちびっ子の名前はルカにしよう」

「いやなの。ままにもきめてほしいの」

 ルカ、という名前に決まりそうになった幼児はその小さな口を尖らせた。

「そうですね。でも、実をいうと私もルカという響きは好きなのです。だから魔王にもそう伝えたのですよ。ではそうですね、瞬くという意味のゴッズ、という言葉があります。それを合わせてルカゴッズというのはどうでしょうか」

「えー? それちょっと重くない? 響き」

「いえ、魔王様、魔族としては適切な重みでございますぞ。まずご自分のご令嬢であるということをお考えくださいませ。そうなるとそうですな、ルカゴッズ・レガンシスとなりますぞ」

 しかし、その名前を一刀両断する者がいた。

「いえ、ルカゴッズ・リザリス・フェインスローです」

「おい、お前すごいねじ込み方したな」

 カナタはリザリスの命名にかなり引いていた。

「魔王が私を娶らずとも、この子の父と母は私と魔王なのです。つまり親権は畢竟私にあると見てよいでしょう」

「すまん、ひっきょうってなんだ? 難しい言葉を使って惑わせないでくれ。あと俺が育てると決めたんだ。ルカゴッズは俺の名字だ。えーと……。あれ? 俺、自分の名字が思い出せないぞ……?」

「魔王様、魔王様の名字はレガンシスにございますぞ」

「いや、めちゃくちゃなこというなよ。俺は俺だよ。レガンシス? そんなことにルカを縛るべきじゃない。そんなことだったら、俺もルカも名字なんかいらないさ。なあ、ルカ」

 ルカゴッズは無言でカナタに寄りついた。

 しかし、リザリスはそんなルカの様子が見に入らない様子で。

「魔王は私を娶るべきです。そして組んず解れつするべきなのです」

「おい、どさくさに紛れて変なこと言うな女の子なのに!」

「カナタ様が幸せであれば私は別に構いません……」

 最後にフラゾエルが誰にも聞こえない言葉を呟いたのだが、命名会議はめちゃくちゃになってしまった。

 当然、その中心にいるルカゴッズは……

「みゃああああああうるさいのおおおおおおおおおお!!」

 爆発した。

「うるさいのうるさいのうるさいのおおおおお! もうるかごっずでいいのおお! おやのじじょうとかるかにはどうでもいいのおおお!」

 魔力を発しながら器用に文句を垂れていた。

 ルカゴッズを膝に抱いていたカナタは急にルカゴッズが熱く、発光し始めたのを感じた。

「あちっ、こら、ルカ! あー!! おいおい、お前ら! ストップストップ! ルカがギャン泣きするからお前ら黙れ!」

「魔界が!」

「勇者の名が!」

「カナタ様ァ……」

 しかし誰もカナタの言葉を聞いていない。

 そしてついにカナタはキレた。

「だー! てめぇら黙れバカ野郎!!」

 カフェで働く数人の魔族が気を失い、会議に参加する面々も息を呑んだ。

 それほどの大声にルカは耐えきれず、どこかで父が自分のために怒ってくれたんだとはわかっていても、大泣きに泣き始めてしまったのだった。

「ふぎゃあああああああ、ぱぱこわいのおおおおおおおおおお!!」

自由すぎる! 魔王城の面々でございますぞ。

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