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19話「告白奇妙」

 幼児がものすごい笑顔でずんずんと歩いている。

 暗い森の中でもお構いなしだ。


 素っ裸じゃなんだから、ということでカナタが自分の上着をすっぽりと被せてやったのだが、それを嬉々としてズルズルと引きずり回っている。

 丸首だったのでストンと全部落ちてしまうことはないが、服としての意味をほとんどなしていない。

「ねえねえ、ままはこっち?」

 幼児の質問にカナタは微妙な目でいろんな方向を見た。


 どこだったかな……。

 ぶっ飛ばされたのまでは見てたけど、正直色々やってる間にどちらの方向か全くわからなくなっちまった。ほんとゴメン、リザリス。

 ぶっ飛ばされた云々でいくとさっきの騎士のおっさん大丈夫かな……。ま、殺されそうになったんだし、別にいっか。


 カナタは表情を変えず心の中でリザリスに謝っていた。

 幼児はどこ吹く風といった感じであちらこちら気になるところをぐるぐると歩き回っている。

「あー! むしだ!」

 今度は虫を発見したらしい。

「おい、リザリスはどうするんだ?」

 カナタが聞くと、幼児はばつの悪い顔をした。

「あっ、まま……。わすれてたの」

「さっきあれだけ探しに行くってごねたのに」

「ふえぇ、いいの! ほんとはぱぱのおしごとなの!」

 といって今度は怒り出す。

 思ったまま素直に感情を表現する幼児にカナタは新鮮な驚きを感じていた。

 カナタはまだ自分と照らし合わせることしかできなかった。

 もちろん実際のこどもはこうではない。高校生としての知識しかない今のカナタではわからなくても仕方ないことだ。


 こどもに学ぶことってあるんだな。

 そんなことを考えているとちびっ子が口を開いた。

「ぱぱはわたしよりまほうつかえるんでしょ?」

 魔法……な。

 ここに来て使ったのはデコピンレーザーと幻魔だけだ。

「は? いや、魔法なんてまだ全然……」

「でも、たくさんまほうかいてあるよ? さっきのこわいおじさんより、たくさんまほうつかえる……」

「ん? どういうことだ?」

 俺は幼児の肩を優しくつかんだ。

 今の言葉は見逃せない。

「んー。おねがいするとすうじともじがたくさんみえるの。ほかのひとはみら……みれ……できないの」

 適切な言葉が出ないから誤魔化したな。そんなところも可愛い……じゃなくて。

 もしかしてそれってステータス画面なんじゃなかろうな……。

 次の言葉はもっと驚愕だった。

「ぱぱはせかいにあるほとんどのまほうがつかえるの。かみさまでもむりなの」

 さらっと。

 さらっとちびっ子は神より俺の方が魔法を使えると言った。

 俺はその魔法の種類云々よりも、どうして神との対比を出せるのか、そちらの方が気になった。

「なあ、ちびっ子。お前はいったい何者なんだ?」

「わたしはわたしだよお! ちびっこは。ヤ!」


 そんなやりとりをしていると彼らの背後からガサガサ、という音が聞こえた。

「む……魔王、そちらの少女は誰ですか? もしかして貴方をねらう……」

「あっ、リザリス!」

「ままなの!」

 うしろから出てきたのは満身創痍のリザリスだった。クールな表情だが、口の端から血が流れている。相当のダメージを負っているようだった。

 だが、そのリザリスが幼児を目にした途端、地面の草をかき鳴らし気色ばんで駆け寄った。

「おい、リザリス!」

「この子は……!」

「リザリス?」

 次の瞬間、リザリスは幼児を抱きしめていた。

「はぁあん! なんて可愛いの!」

「ままー!!」

 そこには感動的な親子の再会……違った。不思議な光景が生まれていた。

 鎧を着た傷だらけの美少女が、汚された俺の上着を着た幼児を抱きしめている。

「まぁま、くるしいの!」

「なんだ、苦しいくらい、愛に比べれば安いものです。甘んじて受けなさい」

「リザリス」

「まま、ままはわたしのままなの。こんにちは!」

「礼儀正しいのですね。あなたはどこの子ですか?」

 どこの子? という言葉が幼児の耳に届くや否や、幼児の目には思いっきり涙が溜まっていった。

「ままがままなの!」

「はっ……もしかして迷子なのですか? わかりました。魔王、一緒にこの子の親を探してあげましょう。それが勇者としての私の努めです」

 リザリスはキリっと答えた。

 場面が場面なら感動できる言葉なのかも知れなかったが、カナタはこのままではマズイと思った。何しろ彼ら二人が手も足もでなかった迅雷のウルフブラスを一方的に一撃で空の星にした幼児である。

「まてまてまてーい! リザリス」

「なんですか魔王」


 実はこの子は俺の子だ! とか言ったらリザリスもヤバそうだ。

 ちょっと言い方を変えて伝えられないだろうか。

 俺がすでにこの子を育てようとしていることを。

 っていうか……自分が呼び出しちまったんだから、責任は負わなきゃいけないしな!

 俺を助けてくれた、って言えば、流石に魔王城の連中も悪くはいわないだろう。


 俺は座り込み、ちびっ子を膝の上に乗せた。ちびっ子の体は少しだけひんやりとしていたので、手ですっぽりと覆ってやる。

 

「リザリス、この子の面倒は俺が見る」

「ぱぁぱ……」


 その言葉をカナタがいった途端、リザリスの動きがものすごい硬直した。

「ちょ……ちょちょちょ、ちょっと待ってください魔王カナタ! パパ!? どういういことなのです!」

 と、凄い剣幕でまくし立てたのだが、何かに気づいたようだ。

 そして今度は別の震え方をし始めた。ふるふる、というかわなわな、というか、その様子は一言で表すなら見つかるはずのなかった宝を見つけた者の顔だった。

 そして再びリザリスはカナタの膝で丸まっている愛くるしい幼児を見る。

「そこの迷子……さきほどあなたは私のことをまま、と呼びましたね」

「うん……ままはままだもん」

「ではパパはどなたでしょう」

「ぱぱはぱぱだよ。ぱぱはかなた、ままはりざりすだよ? どうしてわからないの?」

 円らな瞳がリザリスを打った。

「大丈夫だ……俺はもう、お前のぱぱだよ……」

 魔王は目覚めてしまったようで、すでにがっちり幼児をホールドしていた。父親というのはおかしいが、年の離れた兄弟なら通用しそうな雰囲気ではある。二人は見つめ合っていた。

 それを見下ろすリザリス。

「つかえます」

「何だ、リザリス、何か言ったか? とにかく俺はこの子を育てることにした。責任もあるしな」

「魔王……私は今日からこの子の母になって、貴方の妻になります」

「は?」

 巨大な月が見下ろす中、ここに奇妙な告白がされた。

平日は進めて

休日に書き直し作業を続けたいと思います!

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