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18話「偽神会議」

 9柱の偽神が集う偽神会議。

 レガンシスを遙か下方に臨むエリアヌス島、その中心にある偽神城ユークリッドの会議室「クーリエ」で開催されようとしていた。

 

 ユークリッドの荘厳なる会議室はけして広々とした空間ではない。秘匿された会議を行うため手狭な部屋だ。

 しかし、自ら世界の黒幕を標榜する彼らの格に合わせた部屋は、緻密なバランスで成り立つ、世界に例を見ない一室だった。

 ひとつひとつの席に合わせて雰囲気もガラリと違っている。

  

 その席に座る者の好みを完全に反映させつつも、全体の調和を失わない「クーリエ」は至上の場所であり、秘匿された権威の象徴とも言われていた。

 勿論下界の人間にとっても一部の権威者しか知らない世界の頂点とも言える会議。

 

 クーリエで行われる会議は今まで全て順調に行われてきた。

 どれほど緊急の事態であっても彼らが取り乱したことなど一度もない。

 本来なら偽神達が世界の命運を我が物顔で語り、決議をしていく、まさに秘匿された世界の黒幕たる九柱の暗躍の場だったのだが……。

 その偽神会議は今、お通夜状態だった。

 

 会議の司会を取り仕切る偽神第3位オーペスの執事であり、偽神会議事務次官を兼任する実力者ベル・アモンドは後に語る。

 いつもは白髪で平等のベルと呼ばれる実力者だったのに、真っ青でこんなことをいっていた。

『胃薬が手放せなくなりました……』

 神に類する者をもってしてもその場の空気に耐えられず、ストレスに負けてしまったのである。

 たった一度の会議だ。彼らの落胆と自らの権威に対する失墜の恐怖、あると思っていなかった転落が目の前に突如出現したことで、あるはずのなかった焦りが彼らに生まれてしまった。

 

 会議の焦点は当然、専らカナタと出現した「神」の如き存在の幼児に集中していた。

「ウルフブラスがやられた……。やったのはカナタの召喚した正体不明の幼児だそうだ」


 そう発言したのは白を基調とした彫刻が目立つ席に座る、偽神階級第1位、最高偽神「支配」のモンラッシェだった。

 彼女は机に両手を付け、テーブルから目を上げられなかった。

 彼女が身につけるのは白いゆったりとした法衣。

 本来なら強力なカリスマを発揮するはずなのが、この度の会議ではカリスマの分、そのまま周囲の落胆と焦燥につながってしまった。

 

 敗残の将でもこんな姿を部下には見せないだろう。本来なら美しいはずの顔も悲痛に歪められて滑稽なことになっている。

 

 偽神達は負けることに異常に耐性がなかった。

 

 彼らの中で比較的分別を持つ第7位「堕落」のピュリニーが少年のように首を傾げながら前髪をかき分けて発言する。

 彼の席は春風のような軽快さを基調にした清潔感溢れる彩りだ。

 

「まあ、ウルフブラスさんは過去にもカナタに負けてますし、そう問題はないかと思うのですが、問題なのは幼児の方なんですよね」


 すると第5位「鉄環」のエリアブラスが口を開いた。エリアブラスはウルフブラスの双子にあたる。

 見た目は粗野な武人である彼と反対で文官然とした学舎肌を感じさせる者だった。

 しかし、その見た目とは裏腹にエリアブラスの席は弓や銃器などの関節武器で埋め尽くされている。その中には明らかに地球産とみえるピストルやライフルも所狭しと置かれている。

 背後にはアーミージャケットさえあった。これらは実は記憶を失う前のカナタから送られた品で、隠していないがエリアブラスのお気に入りだったりする。

 

 エリアブラスはメガネをくいっと上げ、顔をヤンキー同然に歪ませた。

 兄とは違い、八重歯が覗く。

 

「あのよぉ、ピュリニー。てめぇこれが前回の負けと意味が違うってことくらい、わかってんだろなぁ? あ? お? カナタからもらったマシンガンぶっ放すぞてめぇ」


 エリアブラスはもの凄く口が悪い。文官の雰囲気が台無しだ。本来はもっと冷静なタイプなのだが、いつも大体こういったケンカ腰だ。

 ピュリニーはそんなエリアブラスを片目に、生意気そうな口を開いた。

 

「あのさぁ、エリアブラス。今回の議題に上がってる人の武器をもらって喜んでる人に意見なんかされてもボクは全く心に響かないんだけど」


「うるさいぞ小童どもがぁ!!」


 会議室に轟音が鳴った。ベル・アモンドはその裂帛の気合いと共に吐き出された空気に身を縮ませる。

 怒鳴ったのは偽神第8位「恒久」のジュブレだ。

 

 ジュブレは他の出席者に比べて体が2倍から3倍ほど大きな筋骨隆々の壮健を誇る壮年男性だった。

 眼光は鋭く殆ど白目に見える。また服もかなり自身から発する熱量が多いのか、ノースリーブの灰色の胴着に似た服だった。

 そして固い髪質の白髪を一つにまとめ上げ、後ろに三つ編みにして垂らしている。

 彼はこの偽神会議にもかなり長い期間に渡って在籍している。

 今は第1位のモンラッシェが初めて偽神会議に参加した時、ジュブレは1位の存在だった。

 彼もどれだけ偽神会議に身を連ねたか覚えてはいない。だから「恒久」だ。

 実力は折り紙つき。一応隠居、という立場だが実力者であるため、偽神会議に呼ばれている。

 

 彼の席はシンプルなものだった。飾りも何もない。ただ顔に似合わぬ茶菓子と紅茶が置いてある。

 茶菓子はというと、今のカナタが怖がる金食華のマカロンだ。ジュブレは毒をスパイシーと感じる程度の強力な毒耐性を備えていた。

 彼はそれをむんずと掴むと、繊細な動作で口に運ぶ。実は掴んだときからして優しく摘まんでいた。

 もごもご、と口を動かすと心が安定したのか話し始めた。

「そもそもヤツを記憶喪失にしようと考えたのが誰だったのか思い出してみるとよい」


「貴方です」

「てめぇだろジュブレ」

「ジュブレさん……」


 モンラッシェ、エリアブラス、ピュリニーの順だ。

 

 正直言うとジュブレは自分の発案が完全に裏目に出たのを迫力で誤魔化そうとしていたのだった。

 彼も全然、冷静なんかじゃなかった。そうであった、と口の中で言い、情けなくも押し黙ってしまった。

 

 ベルはそれを見ながら別の意味で胃を縮こまらせた。会議を長い間とりしきっていた身としてはなんかもう、いっそ切ないのだった。

 

「あい、そーりゃわかったけんどもぉ、これからばどないしょいう話じゃなこってん?」


 奇妙な言葉を発するのは第6位の「絶殺」のレシャンだ。

 彼女は脱力した雰囲気で、牛らしい角の付いたフードパーカーをだらりと着ている。

 体つきも平坦だが、ほんのりと漂う色香があった。

 目もぱっちりと開けばさぞかし美人だろうが、本人のやる気の無さも相まって半眼だ。

 唇だけが艶めかしいピンク色だが、グロスを塗っているらしい。本人曰く「そこだけは手が抜けない」のだそうだ

 

 彼女の席はゲームで埋め尽くされていた。誰が持ってきたものかはもう割愛する。

 

「しょーじきわらしはぁ-、きゃなたくん大すっきだかりゃぁ~、どぉでもいいの。何かくだらないこと言ったらぁ~。マジブッコロス!」


 と、途中からいきなりいきり立ってさっきまで無かった刃物を四方八方から出現させた。このまま誰かに斬りかかりそうな気配を発している。


「やめてよレシャン……」

 

 ピュリニーは彼女が苦手なのか、隣の席で冷や汗をかいていた。

 

「きゃははははは!! 絶殺する? 確殺するぅ? きゃなたくんボコにしてお星しゃまにしれもいぃんらよお!? らいしゅきやけど……きゃなたくん、あたしの方向いてくれへんきゃら~。うえええええ~ん」


 そして今度は泣き始めた。周囲の偽神もさもありなん、といった感じで適当に流している。酒乱に向ける目と何ら変わりない。

 レシャンはカナタに惚れてからというもの、いつもこんな感じだった。

 

「レシャン、黙りなさい」


 第3位、この城の主である「賢者」オーペスが口を開いた。

 栗色の長髪を真ん中で分ける美男子だったが、今は見る影もない。目の下には一晩でできたクマがある。

 彼は偽神の力を疑わない、偽神の良心とも言える存在だったが、ウルフブラスの敗北を見て――心が砕けていた。今は彼の席にある本も乾いたオブジェになり果てている。読んだ所で知性なんてすこしも上がりそうにない。

 

「もう……いいのだ。我々の時代は終わったのだ……」


 オーペスはブツブツと呟いている。ベル・アモンドは自らの主が初めて見せる姿にもう一目も憚らずガン泣きしていた。

 

「ふぐっ、うううっ!! お労しやオーペス様ァアアア!」


「おいおい、オーペス。てめぇがそんな状態じゃ、ベルが自分の涙で溺れ死んじまうぞ。せめて独り言はやめろや」


 と、意外に面倒見の良さを見せるエリアブラスだった。

 

 八柱の偽神のうち、一柱は体調不良(お星さまになりました)、七柱はこれからの自分を思って暗くなっているところだった。

 

 加えてお通夜状態になっている理由は、ウルフブラスが偽神第2位の存在だということも挙げられる。

 

 彼の席は世界の剣や刀を模した装飾や、ブラガの彫刻が置かれていた。

 

「しかも出かける時、爽やかな顔で『カナタを殺してくる。今回は絶対イケる!』ともの凄いドヤ顔で出て行ったのに……本当に恥ずかしい。我が夫として」


 モンラッシェの夫がウルフブラスというのは偽神の誰もが知っていることだ。

 偽神至上最強の夫婦とまでいわれた輝かしい彼らの功績は本当に枚挙に暇がないのだが、カナタに関わったことで奇妙に捻れてしまった。

 

 この世界に彼ら以上の実力者などいない。これで打ち止めだ。

 

 しかし、ここで一石を投じる者がいた。偽神第9位「魔王」ビアンロッソだった。

 ビアンロッソはシンプルな見た目の魔族で、額に一本の角、そして尖った耳と緑灰色の肌を持つ、典型的な魔族だった。

 出身も元魔族で、エフの前の魔王になる。彼の席は末席ということもあってか、あまり華美ではない。

 だが他の参加者の持つ要素が全て集められた席になっていた。それも、一段劣るような見た目のもので揃えられている。

 

 対して強くもなく、エフに魔王の座を明け渡した時にも、ただ開放感に充ちていたような、魔王にふさわしくない男だった。

 と、彼自身の評であるが、いつの間にか偽神に駆け上がっていた不思議な魅力のある男である。

 

「カナタはエフで釣れば良いだろう」

「それはもうやって早速失敗してただろ!」


 エリアブラスが速攻でビアンロッソにツッコミを入れた。

 魔王城にエフを派遣したのはこのビアンロッソだったのだ。


「迂闊だったか」

「魔界はバカばっかだからね」

「どうしてこんなのが魔王張ってたんだろう。もうただの天然でしょ」

「すまぬ」

 そして全員で揃って溜息をつくのだった。


『はぁ~』


 しかし、そこにひとりの帰還者があった。

「遅れたな」

 星になったはずのウルフブラスその人であった。

いつも読んで頂きまして本当にありがとうございます。


色々実力不足な場所を修正いたしたく、しばらく改稿作業をしたいと考えております。

全体的な内容は変えないつもりですが、変えた点は当該話数と最新話で報告いたします。


これからもよろしくお願いします。


………………

近況報告


5/24 序章「彼方喪失」を追加。

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