15話「魔王様、調子に乗って……ブーメラン」
ばちん、と俺の中にあった魔力の枷が飛び跳ねて消えた。
その瞬間、からっぽになっていた容器がいっぱいになるかのように魔力が俺の体に行き渡っていく。
ほとんど意識もしていないのに足の怪我も修復されていた。
「ハハ……まるで化け物だな……いや、化け物以上か」
内部の声によるとそんなに保たないってことみたいだ。
でも、この解放された感じ。
眠りから覚めたような爽快感で満たされていた。
「はっは……」
俺はボキボキと指を鳴らす。やっと本調子だ。
そういえばまた時を止めてしまったが、フラゾエルに時鍵で補足されてないだろうか。
まあ、いい。今の俺がアイツに止められるわけがない。
それくらいの気力が体の中に充ち満ちていた。
俺はリザリスとウルフブラスの対峙しているところまで歩いて行く。
ウルフブラスの持つ雷剣は本当にあと少しでリザリスの命を奪う所だったようだ。
ここまで近づくと、リザリスの使っていた魔剣の壊れた刃のカケラがいくつも空で止まっている。
剣の切っ先はというとリザリスの胸に吸い込まれていくところ
俺は大して逡巡もせず、ウルフブラスの剣を素手でつかんだ。
どうしてそんなことをしようと思ったんだろうな。
剣からピリピリとした魔力を感じるがーーウルフブラスの剣はその程度だった。
「ハハハ……。こんな程度か。あんな凄い気配を振りまいてるから何かと思えば」
俺は手に力を入れる。
そんなことをしたら手が切れてしまう? いや、違うね。
今の俺にとってこんなものはアルミ箔同然だ。
確かに気をつけなければ手も切れてしまうかもしれないが、今の俺なら多少無理をしても全く問題ない。
剣がミキミキ、という音を立てる。
ウルフブラスとか言ったな。コイツに自分の剣を壊されていくところを見せてやりたいよ。
俺のアキレス腱を斬った代償としてな。
クシャリという音を立てて剣が砕け散った。
砕け散った剣からは雷光が消えて、かけらがぼろぼろとこぼれていく。
今の俺は醜悪な顔をしているに違いない。
だってそうだろう? 笑いが止まらないんだ。
さっきまで勇者を怯えさせていた男が、今の俺、魔王にとっては敵じゃない。
これが楽しくなくてなんだって言うんだ。
蟻だ。
蟻は潰すに限るんだよ。
“ちっ、これだから力を渡したくなかったんだよ。バカが”
また頭の中で声が響いた。なんだよ、邪魔すんな。
“過ぎた力は身を滅ぼすんだよ。てめぇじゃまだこの力に飲まれちまうようだな”
あ? 飲まれてなんかねーよ。
俺のどこが間違ってるっつーんだ。
大体このクソ野郎が先に攻撃してきやがったんだぞ。
“ふぅ。そうか。じゃ、戦いの続きでもすればいい。俺はもう力は貸さねーからな”
と、声が止んだ瞬間、俺の中から魔力が霧散した。
ウソのように、簡単に、ぱぁん、と。
あれだけ全能感を与えた力が一瞬で消えてしまったのだ。
ダイヤモンドからモヤシへのジョブチェンジ。
「お、おい! 俺はこれからどうすればいいんだよ!」
“あー? んなもん、少しは自分で考えろボケナスッ!”
えええええー?
何どうすればいいの? 俺、どうすればいいの?
誰か教えておねがーい!
フフフフフどうしようものすごく心細い。
すまん、密かに色々最低だったよな。うん。ごめんなさい。
力がなくなるとこんな考え方も変わっちまうのかよ。
モノの見え方がさっきまでと違い過ぎるよ。
まるで、さっきのは俺の中にもう一つの人格ができたかのような……。
声の人すいませんもう一回力貸してもらってもいいですかね?
ダメですか?
当たり前だろ、と言わんばかりに無言である。
「すんません、ほんと色々すんません……」
そして止まっていた時が再び動き出した。
俺はぼんやりとウルフブラスとリザリスを眺めてしまっていた。
当たり前のように暴風のような攻撃の応酬が再開されてしまった。
自らの壊れた剣がリザリスの胸を素通りし、ウルフブラスは違和感に目を見開く。
「なんだと!?」
「どうして?」
リザリスは死を覚悟した自らの胸を見て、自分の状態をしっかりと確かめるよりも早く、引いてウルフブラスとの距離を取った。
そして気づけば二人の視線が俺を中心に交錯する、というわけだ。
うん。どう見ても俺が怪しいもんな。
さて、逃げたいね……。
いや、この状況、使わなくてどうする。
俺はウルフブラスの圧倒的な気配に圧されながらも自分がここで一番強い、という顔をして見せた。
つまりハッタリだ。
さっきまでギリギリ嘘じゃなかったからな。少しでも牽制になればいい。
胸の前で思いっきり不遜な腕組みをして、顎を上げてウルフブラスを見下げるような姿勢を作る。
まぁ、ウルフブラスは騎乗してるからな。ちょっとバカっぽく見えてしまうかもしれないが、そこはそれだ!
「はん。ウルフブラスとか言ったか? 何だお前の剣は。紙のように柔らかかったぞ?」
「やはり……実力を隠しておったか……。どこまでも忌々しい男よ!」
武器は壊したからな。
敵わないと踏んでもしかしたら引いてくれる可能性もある。
「ここで引かないか? 武器を持たずして戦えるわけでもなかろう?」
精一杯背伸びして言ってみる。剣が壊されている以上俺の実力に疑う余地はないはずだ。
「引けるか、たわけ」
しかし、ウルフブラスは俺の方に腕を振った。ブン、と一回。
「いやああっ!」
リザリスの声が響く。
俺より先にリザリスが反応して、遅れて俺が自分の状況に気付いた。
「な、んっ……?」
はは、まいったね。
気づけば俺の胸に雷が刺さっていた。
バチバチ、っつー、音が聞こえるよ。
ウルフブラスの攻撃なんだろう。腕を振った時に何か投げたのか?
もっと、侮らないで、怒りを抑えて、さっさと潰してればよかったんだ。
ま、そうだよな。そりゃそうだよな。
旧魔王を不意打ちとはいえ一発で倒せる勇者が怯える、っつーか手出しのできない存在だもんな。
強さで言ったら一般人なんかじゃとてもじゃないけど太刀打ちできないレベルの話だよな。
そりゃ、剣以外の攻撃方法も多彩でしょうよ。
うわー、まずったなあ。
っていうかこれ、詰みじゃない? ははっ、すげーブーメラン。ブーメランならぬサンダースティック。
ここ、どう考えても心臓でしょ。
うわ、初めて痛くなってきたかも。
当たった箇所がジンジンと重く熱く、そこから意識が零れていく代わりに痛みが詰め込まれていくような、際限の無い苦しみが俺の体を襲う。
「ああ! がああ!」
ごぽっと口の塊が落ちた。
息、息が……! 息をしようと、スるト……、血ガ……。
「魔王!!」
リザリスが自分の身のことも考えないで俺に走り寄ってくる。
「く……ルな!!」
そして俺の意識は加速度的に遠のいて――。
“お前、なんでやられてんだよ”
あの声が響いた。
お、もしかして大丈夫な流れ?
ん? なんだここ。真っ暗だな。夢か?
気付くと俺は真っ暗な部屋の中にいた。
ここにいると声が聞こえる。俺の中で聞こえる声だ。
死ぬから夢でも見てるのかな?
“大丈夫ではねーし夢でもねえ。死ぬぞお前。つーかいっそ死ねよ”
いや、一応考えてハッタリ打ってみたんだけど。死ねよはヒドくね?
ってかお前ここのどっかにいるの?
“いるかもしれねーし、いないかもしれねーな。相手を引かせようとしたのは悪くなかったぜ”
だろ?
“アイツが今放った攻撃はお前に効くだなんて思ってない攻撃だ。オラ、見てみろよ、そんな攻撃が通っちまったヤツの顔をよ”
この暗い部屋の中に窓が一つ開いた。ああ、ウルフブラスの顔だ。
「ぬ? ……冗談ではあるまいな?」
ウルフブラスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
あんたもマゴッツ爺さんと似たような顔ができるんじゃないか。
俺このままだと死ぬよな。相手の顔なんて見てる場合じゃなくね?
“死ぬよな。ヤバいな……調子ん乗ったわ。とはいえ、今俺はどうしようもねーし。あ、そうだ、ウルフブラスの野郎が言ってたからよし、嫌がらせだ!”
何言ってんだよ。
ロクでもないことを言うんじゃないだろうな?
“邪神を呼んじまおう”
邪神……?
おい、それは俺でもわかるが、まずいんじゃないのか?
ホラ、大体邪神って色んなバランスを崩すだろ?
“必要なものは割と揃ってんだよな。俺の血だろ? そしてリザリスの持つ魔剣のカケラとウルフブラスの剣、ボルドー のカケラ、後はリザリスの涙かなー。あ、悪いがクーリングオフは効かないぞ? ぶっちゃけ俺の血さえありゃ呼べるんだけどな。それもまぁ、ガチャで言って見ればウルトラレアみたいなヤツを。でもそれじゃ、ガチャ特典がなー”
なんだよウルトラレアって。俺死にかけてるのに。
それにリザリスが泣いたりなんかするわけねーだろ。
結構クールだぞあの子。
あとな、俺の血ってなんだよ。お前の血じゃねーよ俺の血だよ。
“あー、その辺は別に気にすることじゃねーだろ。お前の中の声が喋ってんだ、俺の血でいいじゃねーか”
ああ、そうか。そうだな。
……? 正直腑に落ちないけど、まあいっか。
で、俺はどうすればいいんだ?
“ふむ、そうだな。こうしろ”
……マジかよ、それめちゃくちゃ難しい要求じゃねーか。
序盤の書き直し、っていうか書き加えみたいなものを考えてマス!
出来次第最新話の後書きでその旨触れますのでよろしくお願いします。
活動報告の方がいいのかな?




