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14話「魔王様、偽神と出会う」

 ものすっごい勢いで視界がブレて見える光景が移り変わっていく。

 最初はレガンシスの城下町だった。

 次に門。門番は反応できずリザリスにぶっちぎられた。

 肉体的に千切られたわけじゃないぞ。あくまでもその場をさっさと通り抜けたって意味だ。


 そして今は森で揺られている。 随分遠くから雷の音が聞こえてくるな。


 いくら夜目が利くとは言ってもこのスピードだとちょっとどこにいるのかわかんない。森に入って大分経ってるのはわかるんだけどな。ハッキリ見えた所で何もわからんだろうが。


 見ての通り、いま俺は今日初めて出会った勇者の女の子の小脇に抱えられて移動中だ。

 っていうか半分以上誘拐と言って差し支えない。

 静かな森だな。不自然なくらい獣も鳥もいないじゃないか。


 いやー、それにしても高低差のある場所とかにくると――ね。

「ぐふっ」

 胃の中の攪拌されて酷いのなんのって。何度もさっきからえづいてるんだけど、リザリスは一顧だにしてくれない。今は森の中にちょっとした段差があったんだけど、あ、段差って言っても数メートルはある崖なんだけどさ。


 当たり前のようにひとっ飛びなの。


 もうなんか生きてるのがバカバカしい感じ。


 え? 俺ができるかって言ったらできるでしょ。魔力封印がなければね。


 いや、身体強化無しでもギリ行けるレベルだとは思うよ? 思うけどさーっ! ぐえっ。2個目の丘越えた。

 しっかしこの子全然表情変えないで走ってんの。


 体力バカ。勇者だからってちょっと力有り余りすぎな気がするよ。


「なあ、リザリス」


「なんですか?」


 リザリスが走り続けながら俺の顔を見下ろす。森の中だっていうのに星の明かりで彼女の横顔が艶めかしく見えた。


「お前は俺を殺さないのか」


「……何故殺さなければならないと思うのですか?」


「いや、エフが言ってただろ。勇者として魔王を倒したくなってしまうと」


「……」


 リザリスは答えない。

 その代わり俺の体に震えが伝わって来た。


 横顔が紅潮していた。


「もしかして……トイレか?」


「ちがいます! 急いでるんです!」


 何に?


 いや……俺の目が追いきれないほどの速度で走ってるってことだ。

 てことは……何か本当に理由があるのかもしれない。


「……魔王には言えることと言えないことがあります」


 うん。それはわかるよ。なんて言ったって殺したくて仕方ないんだもんな。


「俺を殺したくなるくらいだもんな。そりゃ色々あるだろうとは思うけど」


「いえ、その程度なら私の力で抑えることができます」


 できんのかよ! どういうことだよ!

 じゃああの態度はなんなんだよ!? 初恋の相手に素直になれない小さな女の子みたいな反応じゃないか。


 でも、俺の想像はかなり見積もりが甘かったらしい。


 リザリスがビクリと体を震わせた。


「どうした?」


「……~ッ、来てしまいました……すいません、魔王」


「なっ、なんだ?」


 遅れて俺もその意味がわかった。

 体にとんでもない怖気が走ると、葉が擦れ森全体が一個の生物になったかのようにザワザワと騒ぎ立てる。

 鳥獣の類いがいない理由がやっと理解できた。


 すでにここから逃げ去っていたのだ。


 気付けば遠くの雷の音がなくなっていた。


 周囲を巻き込むような激烈な存在がそこに出現したということに気付いたのだ。


 巨大な雷光が目の前に出現した。なんて表現すれば良いかな? 柱とかいう比じゃない。

 壁だ。雷の壁が出現したんだ。


 少し遅れて、雷の主が姿を現わす。おい、もう周りが光で真っ白になってるじゃないか。


 一瞬、俺の視界がブレてぼやける。頭の中から考える力が抜き取られるかの如く、力が入らない。


「なんっだ、こりゃあ」


 リザリスの腕から力が失われ、俺は思いっきり地面に叩きつけられた。


「ぐえっ、落とすなよリザリス」


「違います……貴方だけでも逃げてください、魔王」


 呆然と立ち尽くすリザリスの視線の先、そこにいたのはぼやけるような虚ろな姿の黒騎士だった。

 圧倒? そんな生やさしいものじゃない。

 もっともっと心臓の奥深くを握っているような、死に姿を与えたら偶然人の形になりました、っていう感じの姿。


 額からつつーっと、意識もしないのに汗が一筋流れていく。

 ヘタすると涙も出てきそうだ。


 さっきはエフに恐いって感じてたけど、そんなものは序の口に過ぎなかった。

 これは恐怖だとかそういったレベルの存在じゃない。


 生き死にを司るレベルの話だ。もしかしたら、その見積もりでもまだ甘いかもしれない。


 いつでも相手を消すことができ、その権利を当たり前のように持っていると思っている者の気配だ。

 いや、今の俺じゃ正確な所はわからない。もしかしたらちょっと強いってだけのヤツなのかもしれない。


 記憶を失った俺には絶望的な相手に見えた。

 しかも、相手は俺を憎んで殺したがっている。


 殺気が俺を貫いているんだ。


 その殺気の持ち主が冗談のようににたりと笑う。


「ほう? 人間の勇者よ。何故貴様がここにいる」


 声そのものに人を殺す力とかはないようだ。普通の響きをしている。

 その事実が逆に恐怖を助長するんだけどな。


 リザリスはふぅーっと一気を吐いた。


「ウルフブラス……来たのは貴方でしたか」


 ウルフブラス? っていうのか、コイツ……。

 その男は笑いながら何かを考えている。かなりドス黒い笑みだ。

 リザリスはこの場から逃げない俺に振り返る。


「逃げてくださいっ!! 魔王!」


「ほう?」


 リザリスの声にウルフブラスが目を見開く。


 いや、リザリス、気持ちはわかるんだけどな。

 実はどうも……。


 もう既に俺の足の腱は斬られてるらしいな。


 ハハッ……笑っちまうよな。気付いたのは今だが、最初から動こうとしていたさ。


 なんて日だ。


 なんて一日なんだ。


 正直さっきまでのやり取りなんて遊園地の中の出来事だった。目まぐるしく移り変わる、メリーゴーランドの中での一日。そこで終わればさぞ楽しい一日だったろうな。

 でも何だこれは?


 まるっきり……理解の範疇を超えてる……しかもそれが現実なんだぜ?


 誰が出会った瞬間にもう足の自由を奪われるんだよ。

 どこにそんな戦闘があるんだよ。


 こういうもんは双方が名乗って、もっと正々堂々行われないとダメだろ。

 はは……甘い言葉かな?


 俺はアキレス腱を触る。痛みがない代わりにどろりとした血の感触が状況を絶望的に感じさせた。


 もうきっと、痛みは麻痺してるんだ。

 さっきから生存本能が逃げろ、逃げろと訴えかけて来るが、もうどうにもならない。


 くそったれな状況だな。


「いいよ、リザリス。どんな理由かはわからないけど。そいつの目的が俺なんだろ? お前じゃ、勝てないっていう」


「いえ、違います。私はウルフブラスに手を出すことができません。もっと状況は悪いでしょう」


 リザリスが震えている。ああ、コイツに恐怖してるのか。それほど圧倒的な存在だってことなんだな。

 なんでお前はその状況で俺を助けようとしてくれるんだ? なあ。


「どういうことなんだ? リザリス」


「わた……しに、構わ……ないで」


 リザリスは徐々に目が虚ろになって、息も怪しくなってきた。


 どろりとした男が俺に視線を向ける。

 見た目は粗暴な雰囲気のイケメン騎士なんだけどな。

 あんまりにも邪悪すぎるよ。


 お前。


「カナタよ。貴様がこのような状態でいることに、今俺は喜びを禁じ得ない。だが、その目は不快だな」


「そりゃどうも。俺は今日何度もワケのわからん事態を味あわされて、混乱してんだ。やるなら早くしてくれ。どうせ何をしても、お前には敵わないんだろ」


 するとウルフブラスは心底気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「敵わない? 貴様がこの私に? はあっははは!! ははは、ハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハハ!!」


 そしてバカ笑いを始める。そこかしこに小さな雷がバンバン落ちていく。

 コイツ……雷の使い手なのか。それも、自然に使ってしまうほどに魔力が漏れ出るような、力を有り余らせているようなヤツ。


「何バカ笑いしてんだよてめえ」


「これが笑わずしてなんとする。記憶喪失になることは知っていたが、ここまで何もかもできなくなるとはな。今日は素晴らしい日だ。これで邪神は我々の手の中!」


 バン、ッと大きな雷が落ち、そこから光そのもの、という剣をウルフブラスが取り出した。


 圧倒的な魔力量だった。


 今の俺になんでそんなことがわかるんだって?


 だってもう剣が雷の形してんだもん。もー、バカバカしいでしょここまでくると。

 オーバーキルだよ。


 こんなんで攻撃されたら、もう俺は消し炭も残らないね。


「さて、貴様は危険故、この場で完全に殺して焼き尽くす」


「やめてくださいっ!!」


 ギャン! という音が夜の森の中に響いた。ちなみにまだ雷の壁はそのまんまだ。

 見れば手出しすることができないと言っていたリザリスがウルフブラスに剣をぶつけていた。


 それはエフと戦っていた時に使っていた時の剣とは違う、紅い色の剣だった。

 それを見たウルフブラスが目の色を変えた。


「リザリス、お前……我々に楯突く気か?」


「そのようなつもりはありません。ですが、この状況は世界にとっても適切ではない……そう思っています」


 ???


 おい、誰か説明求む。

 そもそも俺の疑問にまともな返事が返ってきたのって、マカロンを食わされた時くらいか。

 うん。なら今くらいでちょうどいいかな。


「魔剣ルガナクならお前にも扱えようが 、俺に楯突ける買い物ではないな。正直失望したぞ、リザリス」


「それは私もです。この状況、貴方にはおわかりでないと見える」


「齢16の小娘が俺に説教か。面白い。では、その剣でお前の怒りを教えてくれるか?」


 リザリスが少しだけ俺に振り返り、微笑んだ。


「ダメだ!!」


 俺は叫ぶ。


 その叫びは既に遅く、二人の剣戟は始まっていた。


 しかし、たった一合。


「なっ!?」


「甘いな小娘」


 リザリスの振りかぶった剣を打ち砕いて、ウルフブラスの光その物の刃が、リザリスの胸に届こうとしていた。

 そこだけイヤにゆっくりと見える。


 お、おいやめろよ。


 その子は今日初めてあったけど、悪い子なんかじゃないんだよ。


 よくわからないけど、ずっと俺を守ろうとしてくれたんだ。


 こんな、ワケ分からない世界で、彼女だけが、俺を。


 俺は、こんな状況でも何もできないって言うのか?


“おい、てめぇ……なんであんなのに好き勝手やらせてんだよ”


 声が聞こえた。よう、久しぶり。


“あー? なんでお前あんなのに手こずってんだ? そりゃそれなりに強くはあるけどよ”


 誰なんだよお前


“んなことどうでもいいだろ。あの目障りな虫をプチっと潰せ。まぁ、手段はお前に任せるが”


 ドン、っと俺の中に急激に力が戻って来た。


「うおおっ!!」


 次いで俺の周囲に光が立ちこめる。


“一瞬力を貸してやる。後でフラゾエルはおしおきだな。おしおき”


 なんでそこにフラゾエルが出てくんだよ。お前関係者か?


 ふと前を見ると、ウルフブラスとリザリスは動きを止めていた。


 ……なるほど、また時間を止めることができたようだ。今度は石像の空間じゃない。


“今回はかかりが甘いからな。時限式で元に戻る。すぐに効果が切れっからな。さっさと動け”


 あい、わかりましたよ。


 俺は狩を楽しむハンターみたいな表情になってないだろうか?

 獰猛な笑みを、自分が浮かべているように感じていた。

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