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13話「迅雷の偽神、ウルフブラス」

 闇の中、空高くから垂れ込む雲に茨の白蛇が巻き付いていた。

 白蛇は雲を自由に駆け巡り、アギトを開いて地面を見つめたかと思うと、周囲を猛烈に照らし地面に突き立った。

 圧倒的な光量と轟音が周囲に拡散し、地に穿たれた穴から爆散した土塊が止めどなく降り注ぎ、その重みで地が鳴動する。


 白蛇は一体に非ず群を為す。


 四方八方大蛇は空を舞い、雲を貫き、その茨を拡散させながら無数の光柱を大地へと生やし続ける。

 無数だ。視界の続く限りどこまでも光の柱が大地に降り注いでいる。


 轟音に続く轟音、そして雷光。


 白蛇とはつまり……雷である。


「好機なり」


 その雷の中にして、静かに佇む騎士が一人いた。傍に待つは騎士の騎馬である。


 雷光が落ちる度に彼と騎馬の姿が闇の中にしかと浮かび上がる。

 明滅する光の中で様々な角度から彼の姿が確かなものになった。


 にい、と笑う。男の獰猛な笑みだ。


 その姿を見た人間は恐慌に陥ることだろう。彼の者の魔力を目にすれば、自壊する自らの体を幻視してしまうためだ。


 おぼろな姿をした黒衣の騎士。


 彼は鎧を身につけている。黒く輝く鎧だ。

 ばさばさと風を受けてはためくのは底が溶け出した墨のように見える黒いマント。

 どちらも神の装備だ。


 けして大きくはない。普通の男と言って差し支えない姿形をしている。

 顎の下まで伸びる黒髪、頓着のない無精髭、しかし品が無いわけではない。彼の瞳を覗けば、それが粗野な魅力の一端を作り出していることがわかるだろう。そうした野生の中に芽生えた知性を感じさせる。

 黒い瞳に通った鼻梁の彫りの深さ、まるで物語の中の騎士そのものの整った造形の顔だ。

 しかし、男から放たれる気配は圧倒的な敵意と怒り。

 彼を目にして正義の騎士であると誰が言えるだろうか。

 濁りきった憎しみを携え、しかしそれが静謐の中に閉ざされている。

 圧倒的な暴力を匂わせているのにも関わらず、けして冷静さを失わない眼である。


 茨の白蛇の群さえも、その瞳の輝きの前では畏れを為すだろう。


 彼の名前は偽神・迅雷のウルフブラス。騎馬は黒馬ブラガ。

「邪神の復活する前に魔王を殺さねばならぬ。それこそが邪神を我々のものとする鍵となるのだ」


 すると黒馬ブラガが雷を呼ぶかの如く嘶いた。ウルフブラスは振り返らずに言う。

「ブラガ、お前も血が滾るか。無理もない。あれだけ煮え湯を飲まされてきた魔王をようやっと殺せる機会が巡ってきたのだからな」


 一つ雷が落ちる。

 再びウルフブラスの瞳が輝いた。

「殺してやるぞ……カナタ」


 ウルフブラスはブラガに音もなく騎乗すると、次の瞬間には姿を消していた。


 迅雷に紛れ、カナタを殺しに。

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