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12話「魔王様、お逃げになる」

 エフがブチ抜いた壁から廊下に飛び出した俺。


 後ろではまだまだ二人の喧噪が聞こえる。喧しいっつーかなんだかな。俺を逃がしてどーすんだっての。

 しかしチャンスだ。ここを逃すわけにはいかない。


 廊下に出たのは初めてだったが、じっくり見ているヒマなんてない。取りあえず豪華で廊下の幅と高さがもの凄いことになってることくらいか。


 まぁゴーレムなんかも通るんだろうし、これくらいのマージンは取っとかないとな。


 さぁーて、右を見ても左を見ても、大体同じな場所に出ちまった。

 今俺がどこにいるのか全くわからない。


 破られた窓側から飛び降りれば良かったかもしれないな。


 いいや、ここは勘で右行こう。


 俺はそのまま走って階下につながる階段を発見した。

 とにかく上に行ったらマゴッツやらフラゾエルがいて、今の状況を賞賛しかねない。あいつらは全部敵!!


 いいぜいいぜ、なら俺はこっから逃げ出すまでさ!


 魔王城からな! グッバイ魔王生活! 数時間だったけど……辛いことしか思い出せないわー。

 俺は首尾良くその後も階段を降り、ロビーの様な場所に出た。


 シンと静まり返ったロビーに、俺の足音が響く。


「ここが一階だと思うんだが、誰もいない?」[k1]


 ん? 誰も?


 俺の目の前には大きな扉が控えている。

 ということはここは魔王城の入り口。警備が手薄じゃいかんだろ。


 しかし、疑問はすぐに氷解した。


 扉がぶっ壊れたのだ。

 壊れる前にたくさんの剣閃が見えた。


 あー、もうこれだからバカスペックの奴らは!!


 出てくる人は見当つきますよ。あの人ですよね!


「魔王、逃げ出すのですか?」


 顎を上げてこちらを見下すように、美貌の少女が俺を見つめていた。

 くっそ、扉をぶっ壊したことなんておくびにも出しやがりゃしない。

 俺の国でそんな事ができたらな、格闘技でメシが食えるんだぞ!


 ……いや、むしろオーバーキルすぎて食えないと思うな。まず対戦相手がビビって見つからないだろう。

 彼女はそういう武力を持っている。


 リザリス・ダリア・フェインスロー。職業、勇者。


 逃げたい。


 でもねー。リザリスがもうここにいる時点で俺は詰んでんのよ-。

 今の俺は魔力が出せない状態。

 体力のみでそんな俺を封殺したエフよりリザリスは強いってことだろう。


 だってここにいるわけだからな。既にエフは説得されたかやられちゃったかのどちらかだろうな。

 いや、爆発音も聞こえなかったから、もしかしたら戦闘はあそこで終了……。


 どさっ、という音が聞こえた。

 あらやだ物騒♪


 転がされたのはボロゾーキンのようになったエフだった。


「義母は言って聞かないので一発後頭部に入れておきました」


 はあああああああああああああああああああああ

 暴力はダメだよおおおおおおおおおおおおおおお

 義母とはいえ母親だよ? 大事にしようよおおお


「ぐ……不覚」


 一言だけ呻くと、エフはぱたりと倒れた。

 まさかテンプレセリフをここで聞くとは思わなかったが、前魔王を倒せる力がこの勇者にはあるってことだよね。


 で、それより弱い俺はここで討伐されちゃうってことだよね? ね? ね?


 そんな風に思っていると、城の中に何かが響き渡った。


『超第一級戦闘配備!! 繰り返す! 超第一級戦闘配備! 貴様等、今日が私達の最期の日だ! 勇者が来たぞおおおおおおおおおおおおお!! 魔界のために私達が礎にならなければならぬ! 総員、戦闘配備、緊急だ全員出ろおおおおおおおお!!』


 警報キタアアアアアアア!! ムダな所が発達してるなこの城。


 上から横から下から前から後ろから、とんでもない大音量が聞こえ始めた。

 今のはフラゾエルの声だ。焦ってるどころの話じゃない。


 たくさんの種々雑多な魔族があちらからこちらからやってくる。


 うそ……だろ?


 え? リザリスが来たのは予定調和じゃないの?

 それともやっぱり壮大なドッキリか何かなの?


 するとリザリスは顔を歪ませる。


「ちっ、こんな所で油を売るわけにはいきませんねぇ」


 おい、お前ガラ悪すぎるだろ。普通に恐いよお前みたいなヤツ。

 え? なにヤンキーなの?

 リザリスってヤンキー勇者だったりするの?


 おうおう兄ちゃん、あーしの聖剣でとりあえずぶっとばされてくんねーか?

 それで世界が平和になって……あークソだりー。

 取りあえずメンドくせえからタコらせろやコラ。

 なんであーしが他のヤツラのためにこんなことしてやらなきゃいけねーんだよ。

 マジ気分ワリー。てめー○ぬぞ? ぶっ○すぞ? お? あ?


 的な。


 いやあああああああああ!!


 本格的に身の危険を感じますううううう!!


 もういいから、さっきの奥底から聞こえる声さんとかも参戦してよおおおお! ピクリとも来ないじゃない!


 そしてリザリスはやっぱり、な戦闘力で周りにたかる魔族達を遠慮無くぶった切っていく。


「……」


 俺の奥底がズズっと動いたような気がした。

 斬られていく魔族達。なすすべも無い。

 すると、今見ている光景と全然違う場所が見えた。


 ザザッと砂嵐のようなものの間に何かが垣間見える。

 救いを求める子供の手……?


「なんだ?」


 リザリスは魔族を斬り続けている。


 あれ?


 なんだこれ。


 すっげー。


 俺今。


 すげえムカついてる。


「カナタ様!」


 フラゾエルが血相を変えてやってきた。


「勇者がやってきました! ここは私共にお任せを! 引いて下さい」


 何故急にお前がシリアスになってやってくるのだ。殴るに殴れないじゃないか。

 全く。


 しかし、今の俺には確信がある。


「おい、フラゾエル」

「はっ、何でございましょうか」

「魔力の制限を外せ。緊急事態だろ?」


 フラゾエルは嫌な顔をした。

 あ、これできない系の表情だ。


 ウソだろ……いい加減にしろよ魔族。


「はっ! ……その……カナタ様。そうしたいのはやまやまなのですが、あの錠はちょっとやそっとのことでは外れないのです……」


 外れなくてもいいから外せよ。

 外してよおおおおおおおおお!


「ま、いいよ。じゃ、外すから」


 さっき一瞬だけ見えた、砂嵐の中で俺に救いを求めるように伸ばされた手。


 俺は自分の心臓に手を当てる。


「おい、お前ら、攻撃をやめろ。リザリス!! 俺達は抵抗しない」


 ったく散らかしやがって。どんだけ一人で魔界を引っかき回すんだよお前は。

 リザリスがこちらを見上げる。

 先ほどまで鬼神のように荒れ狂っていたのに、今はこちらを見て静かにしていた。


 その姿は勇者そのもの……。似合ってるじゃないか。


 俺の命令で魔族が攻撃を中断する。


「カナタ様、今なんと」


「いいからお前は黙ってろ。このままいけば、全員殺されちまうんだろ? それくらいの強さがあると踏んでる」


「確かに……そうですが」


 フラゾエルを強引に下がらせる。

 歯がみをしているが、この状況に陥った責任を感じてんのかな?


 ま、別に俺が本調子だったとしても別のことが起こっただろうよ。


「リザリス。お前が必要としているのは俺の首か?」


「いえ?」


 ん? 違うの?


「貴方本人です」


 リザリスは言うが早いが、電光のように俺に向かって突進した。


「ぬあっ!!」


 エフに組み付かれたように、リザリスに掴まれる。

 ……小脇に抱えられた……だと?


 お前は今ここからショッピングにでも出かけるつもりか?

 俺をバッグのようにして使うつもりなのか? やめてくれ、それだけはやめてくれええええ!

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