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9話「魔王様と、壁の中のエフ・パティロ」

本日2話目です。魔力の下りは後ほどになります。……やっとヒロイン的な何かが出現の巻。

 ふっと目を覚ますと、真っ暗だった。どこかの室内のようだ。シーツの感触がある。


「はれ? なんやこら……」


 喋ろうとしてもまともに口が回らない。酩酊状態というやつだろうか?


 ……ってアレじゃん! 違うよ!

 俺は異世界に飛ばされて、魔王で、臣下に毒を盛られたんだよ!


 しっかし本当に酷い事実が並ぶな。涙が出そうだ。ううっ。


 具体的にはこちらに飛ばされてからの記憶一切を失ってるわけだから、こっちにきてから501年経ってるらしいけど、まさかここに飛ばされて1時間の間にそんな酷いことが起ころうとはね。


 でも、腕を動かしても、脚を動かしても別に拘束されているわけでもない。

 麻痺は解けたようだ。口が回らないのも寝起きだからってことっぽい。

 奴らもいきなり拘束具で体をがんじがらめにするとかそういう非道までは冒さなかったようだ。


 あくまでも俺に抵抗されずにこの部屋に連れてきたかった、ということなのか?


 今後、金食華だけは本気で二度と食わされないように気を付けよう。

 マカロンにPTSDを発症したらどうしてくれんだよあいつら。


 そういえばフラゾエルが俺の魔力を抑えたとか言ってたな。


「結婚に魔力なんて関係ないよな……フツー。いや、レガンシスの常識なんて知らないけどさ」


 毒まで盛ったんだ。


 もう結婚に信憑性を感じられない。


 魔界=魔力を抑えられる=なんらかのモンスターのエサと考えるのが適当じゃないだろうか。


 俺は食われて死ぬのだ。グッバイ魔界生活!


 すると直後に外から窓ガラスを破る音が響き渡った。


 ひええええ俺は金食華に食われるんだーー!!


 俺のイメージでは金食華が食人植物みたいになっている。


 周りを見回しても暗いから何もわからんのだが、どっかから金食華の触手が俺を探しに回っているに違いない。


 そして言うのだ。『よくも我が同胞を食べてくれたな……』と。


 耐えられない!! 泣きそう。俺こんな歳で泣きそう。


 とにかく何かが来たことは間違いない。俺は咄嗟に動けるようさっとベッドから降りて様子を伺った。


 胸が高鳴るのを感じる。高揚じゃなくて緊張だ。体のあらゆるところが緊張に強ばる。心音が頭にも響く。


 意識を集中して見回していると、段々部屋の状況がわかるようになってきた。夜目ということだろうか、徐々に昼のように見えてくる。

 そこは流石魔王の体ということか。


「!?」


 いま、今一瞬、チラッと影のようなものが見えたぞ! 昼のように見えるとはいえ、この状況はホラーそのものだ。ホラーは苦手 なんだよ!


すると俺は首筋にひたりと何かが当たったのを感じて飛び上がった。


「うひゃあ! 触手に殺されるう!」


 しかし、俺の妄想とは裏腹に、凜とした女性の声が耳を撫でた。


「迎えに来たぞ、カナタ」


 ちょっとドキっとした。が、相手がどんなヤツかわからない。油断なんてできるはずがない。


 問題はこの女の気配を捉えられなかったことだ。偶然チラっと影は見えたが、その後の動きが信じられないほど早かった。くそ……悔しいな。


「ちっ」


 俺は背後の存在から距離を取るため反転して飛び退った。ギャギャッと急ストップして床に敷かれているカーペットが悲鳴と白煙を上げるが、気にしない。


「っ……んだと?」


 かなりの早さで動いたはずなのに、背後には誰もいなかった。ベッド側の白い壁が見えるだけだ。


「カナタ……、そんな反応をしないでくれ」


 凜とした中にも色気ある声。囁き声がさきほどより甘く響く。

 腰が砕けそうな初めての感覚があった。


 しかし、俺はそんな感覚には騙されないぞー! 騙されないんだからなー!


「聞いたぞ、また記憶喪失になったらしいじゃないか、お前」


 嘲笑に近い笑い。

 再び俺の首筋に女の手が置かれていた。


 その意味するところは……。


 いつでもお前を殺せる、ということじゃないだろうか。


 そう直感的に受け取った。瞬間、俺の頭が怒りに満たされる。

 嘲り、侮りに対しての男のプライドだろうか。


「っざけんな!」


 俺は咄嗟に裏拳を振り抜く。しかし、やはりそれもギュンッ! と空を切った。ちくしょー! 誰だよ魔力の制限なんてしやがったやつは!

 今くらいの攻撃では霊素が乗らないようだ。マゴッツにレーザー砲をぶっ放した時は何をしても霊素が攻撃に乗りそうだったのに。


「ふむ、確かに初めて出会った頃のお前に似ているな。だが、あの頃よりもっと……今の方が可愛らしく見えるぞ」


「うるせぇ、なっ!」


 俺は再び拳を振って距離を取り、背に壁をくっつけた。これなら背後から襲われることはあるまい。


 そうしたら、ズゴシッ! というかなりアシッドな音が響いた。パラパラと壁面の破砕した粉が辺りに降り注ぐ。


 うむ……。


 無論、背後の壁のものだ。


「どうした、カナタ……怖がるな」


 もういや……。


 うしろにいるんですけど……。


 さっきまで後ろ壁でしたよね? これはもしや貴女がやったのかしら?


「ああ、今お前が感じていることがわかるぞ。どうして壁がなくなっているのかだな。答えよう」


 そして一瞬の間を置いて、かなり恐いセリフが発された。


「削いだ」


 こいつは壁を粘土か何かと勘違いしているらしい。


「削いだのか……削いだんならしょうがない……。それは俺もお手上げの世界だ。だがここは魔王城だ」


「何を言う。呼ばれたから来てやったのだぞ。久しぶりに顔を合わせる婚約者に、そんな言葉はないだろう?」


 ……うええ!? 婚約者?


 いたの!? じゃ結婚秒読みじゃん。


 っていうかなんで結婚しなかったんだよ過去の俺!


「婚約してから500年は経っているな」


 しかも年増来たよコレ。

 いや待たせすぎだろ。どうなってんだよ自分。


「年増か……。酷いこと言うな、カナタは。まあ、そんなところも好きだが」


 心が読めたりするんですかね、この人は。

 っていうかあっさりと告白されたんだけど全然心に来ないな。異常事態斯くあるべし。


「あのさ、そろそろ顔くらい見せないか?」


 すると血相を変えて凄い剣幕で女性が怒鳴った。顔は見えないけどな。


「ダメだ! そ、それだけはダメなのだ!」


「は? 顔を見た方がいいに決まってるだろ? 確かに昔の俺に誠意がなかったことは謝ろう。すまないな」


「え……? カナタが私に……カナタが私に謝っただと?」


 俺が彼女に謝ることは革命的な事実だったのだろうか?


「それと顔を見せられない。今のこの瞬間は呑もう」


 すると背後から訝しむような、こちらを伺う声が聞こえる。


「お前本当に記憶無いのか? 私相手によくそんなふてぶてしい態度でいられるものだ」


「知らないから、じゃないのか? 知らないから、貴女に対してふてぶてしくなれる」


「あっ……いや、そういうことじゃない。お前は記憶を失う前はもっと、もーっと全然、ふてぶてしかったぞ……。それより貴女って、初めてお前から聞いたな……」


 微妙な雰囲気が流れる。いつの間にか後ろの女への警戒も解けてきた。


「名前を教えてくれないか? 俺の名前はカナタ」


「お、お前の名前など知っている。私の名は……ううむ……同じ相手に二度名乗るのはイヤだな……」


 ワガママだなこいつ。


「ち、違うぞ。そうじゃない。お前は乙女の気持ちがわからんのか!」


 わからんよ。顔も見せてくれない乙女の気持ちなんて測れないじゃない。わからないのも当然じゃない。


「ぬ……ぬうう……はぁ」


 すると、女性が息を吐いた。諦めたようだ。


「私の名はエフ。エフ・パティロ。前魔王だ。お前に負けて隠居の身になっている」


「え? 魔王!?」


 俺は衝撃の事実に一気に振り返った。


 あ、ごめんエフさん。約束を破るつもりはなかったんだ。なかったんだけど……今のが思いの外驚きでね。


 俺が振り返った元、壁の中。そこには凄絶な美人がいた。


 長い黒髪に意思の強いツリ目、通った鼻梁、小さな紅い唇。それらが細面に収まっている。

 そして黒のワンピースドレス、スリットがかなりザックリ開けていて、オーバーニーの黒いブーツが隙間から垣間見える。


 何より最強に主張しているのがその良く育った……というか色気たっぷりの大きな胸だ。


 爆弾、スイカ、メロン、ミサイル、釣り鐘……様々な形容が生まれるが、柔らかそうなのにツヤっと輝いてハリがあると思わせる。

 そんな凶器がチューブトップ気味なドレスの中からはち切れんばかりに張り出していた。す、凄い……。

 俺にはちょっと刺激が強すぎるようだ。生の胸の迫力って凄いんだね……。


 めちゃめちゃ美人だし、背が高めでスタイルも良くて、なんかもう、それはもの凄いことになっている。俺は息を飲まざるを得なかった。


 しかし、俺の顔を見たと同時にエフはその目に涙を一杯に溜め、顔を真っ赤にした。


「こっちを見るなぁあああああああ!!」


 そして……過程は割愛してちょっぱやダイジェストの一行でお伝えする。


 混乱したエフのせいで部屋が崩壊しました。

明日も2話更新頑張ります。よろしければ応援お願いいたします。

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