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序章「惑星儀と全てを識っている者」

 初の投稿作品になります。

 至らない点がたくさんありますが、是非ともよろしくお願い申し上げます。


 次から主人公の話が始まります。

 薄暗い部屋の中央にゼンマイで動く惑星儀がもの言わぬ神のように厳かに佇んでいた。


 窓のない部屋の扉が開け放たれ、冷たい空気の塊が光と共にゆっくりと流れ出す。床の埃を舞い立たせながら小さな人影が踏み入った。


 人影が近寄ると惑星儀に使われている機械油独特のにおいがほのかに漂う。

 惑星を支えるポールが鈍く金属の輝きを拡散させていた。


 恒星を中心として惑星それぞれに様々な色が塗ってある。一般的なもので言えば太陽、水星、金星、地球、火星……という太陽系の惑星が連なるものを想像するはずだ。


 この惑星儀はどこをとっても太陽系の惑星が一つも見当たらない。

 ガラスでできた太陽が極めて大きく、赤ん坊ほどもある。


 一番目立つのは一際大きなそのガラス玉だが、もう一つ目立つ球があった。


 その球は恒星を中心として太陽系における3番目、地球の位置にある。

 海が青く、北半球の一部の大陸が紫の色をしているため、奇異に映った。自然現象とは俄に信じがたい色だ。


 その星の間近にもう一つ、重力を一つにする二重惑星がある。


 紫の大地を持つ星の混沌とした印象の一方、その星はただただうっすらとした水色だった。水や氷の多い惑星だろうか。詳細を知る術はない。


 人影は紫の球を見て不意に笑う。無邪気な笑い声だ。

 まるで知り合いがそこにいて、今から自分に会いに来てくれるかのような、心待ちにして気恥ずかしいような、それでいて何もかもを受け入れているような笑いだ。


 人影は動かぬ惑星儀を見た後、視線をゼンマイへと移す。

 これを動かそうというのだ。


 巻く、というのはキッカケだ。

 惑星儀と、それを修理する者、そしてゼンマイを巻くことができる者は揃っている。

 後はゼンマイを巻いて世界を始動させればいいのである。


 人影は寝転んだ。

 自分の体が小さすぎて、そうしないと奥まった場所にあるゼンマイを巻くことができない。

 小さく白く、ほっそりとした手がそれを掴み、しっかと巻いた。

 いたずらっぽく笑う幼子のような声と、ゼンマイを巻くキリキリという音が小さな部屋に響き渡る。


 ゼンマイを巻くことが楽しくて楽しくて仕方がないようだった。


 だって、それをすれば…………。


 人影は部屋の中をゴロゴロと笑い転げる。

 無邪気で楽しくて仕方ないという笑いだった。


 しばらくしたのち、人影は惑星儀を一顧だにせず再び埃を舞い散らして部屋から出て行った。


 小さな小さな足跡をいくつも残して。


 観覧者がいなくなってやっと惑星儀はジジジ、という音を立てて動き出す。

 周囲の星も公転周期に合わせて回転を始めた。


 ゆっくりと小さな星々が大きなガラス球を中心に回っていく。


 すると恒星のガラス球がカッと自ら光を発し始めた。

 ゆっくりとゆっくりと、フィラメントにオレンジの色がわたるように、白熱球は徐々に、淡く、黄白色の光を自ら発し始めた。

 そしていつの間にか、恒星そのものに変貌していた。


 恒星がなければ他の星も輝くことはない。

 紫の惑星は黄白色の光を受け、弾けるような夕方の海の色に染まった。


 そうしてしばらく動いた後、惑星儀は徐々にその速度を落としていった。

 ゼンマイの力を失いやがて止まっていく。

 まるでこの恒星系の終わりを告げているようだった。


 しかし、誰もいない部屋の中で、うっすらと小さな声が聞こえる。


 回したんだね? ゼンマイを。


 すると力を得たように、惑星儀はゼンマイの力を借りず再び回転を始めた。

 いつの間にか部屋の中は真っ暗になり、部屋全体に無数の星々が輝き始める。

 これらは全て惑星儀という機械から解き放たれた光の粒だった。

 闇の中に無数の光が生まれ、それが部屋の中で至極ゆったりと回転していく。


 小さな部屋は今、銀河へと姿を変えた。

 全てを識っている者はまだ自分の識ることの意味を理解できていません。

 何故そこに自分がいるのかもわかってはいません。

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