山田の挑戦
何らの攻撃にも晒されず、唯一人、周囲を見回している。
ブッチデヨとストラは何処に行ったのだろうか。
逃げたという可能性はほぼ無いだろう。
何故なら、向こうが圧倒的に有利な状況だったし、あのまま畳み掛けられていたら、封殺されて終わっていただろうから。
「じゃあ、何で居なくなった…?」
来た道を引き返せば、カズトがいる。
追い付いてこないところを見ると、さっきの女と戦っているのかもしれない。
外に出れば、襟櫛と王子がいる。
戻って来ないところを見ると、何らかの厄介事に巻き込まれているのかもしれない。
戻っても良いし、進んでも良い。
「そして、ここに残っても構わない、か…」
もう一度、頭を整理してみる。
さっきの状況は、明らかに危険だった。
水中戦を得意としたストラと、水中で戦っていた。
そして、身を隠していたブッチデヨが、機を見計らっては荷物を投げまくって攻撃を仕掛けてくる。
そこまで考えて、ハッとした。
「そうか…、投げる荷物が無くなったんだ」
迂闊だった、それに気づくまで時間が掛かり過ぎた。
荷物がある場所まで逃げた。
こっちが追いかけて来なければ、逃げたと判断して勝ち誇るだろう。
別にどう思われようとも構わないが、構う部分だってある。
人間というのは複雑なのだ。
構わなくもあり、構う部分もあり、それで1人の自分だ。
後方を見やる。
そっちの方にはカズトがいて、荷物も溢れ返っている。
しかし、奴らはカズトを巻き込みたがらないだろう。
数的優位が消えてしまうからだ。
しかも、あの謎の女という不確定要素まで抱えてしまう事になる。
地下にも荷物はあるが、ブッチデヨとストラの知識から考えると、上に行った可能性が高い。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、ですかねぇ…」
前回は襟櫛に救われ、今回は荷物の少なさに助けられ、まるで2連敗しているような気分の悪さがあった。
戻っても良かったし、進んでも良かった。
でも、階段の方に向かって足は進んでいた…。