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青騎士  作者: シャーパー
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脆弱で無敵なカズト

「どうしたの?動かなければ、私を殺せないわよ?」


挑発だ、下手すぎる。


そして、彼女は勘違いをしている。


俺の『消失』は自動的なので、自分から動く必要はない。


さらに、メンバーからの報告とやらでも、俺の特異性はメアリにバレている心配はない。


その可能性は消失させている、常に。


つまり、俺が自分から動かなければならない理由は1つもない。


「臆病の風に吹かれたか?こっちの手の内を簡単に晒すわけがないだろ。殺し合いを提案してきたのは、アンタの方だ。だったら、先に動きなよ」


「嫌ね、お断りよ。貴方はどうやら、こちらが動く事によって輝きを放つタイプみたいだもの。私が先に動いたら、損するだけじゃない?」


「あらら、オバサンは計算高いね。それにしても、さっきは俺が輝いた事が無いなんて言ってたのに、今は俺が輝く時を考えてるなんて、矛盾してるとはこの事だ」


そんな事を言いながら、俺は舌打ちしたい気分だった。


メアリは俺の集めてきた情報によれば、先手必勝型のはずだった。


それなのに、俺の特異性が分からないというだけで、迂闊な動きも見せてくれないとは、正直、計算外だった。


そのプライドの高さから、俺の特異性に関係なく、自らが動いて主導権を握ろうとするなんて思っていたのに。


「そういえば、オバサンは何で1人っきりで行動してるんだ?組織のトップなら、それらしく構えて、何人も部下を連れて歩いた方が良いと思うぜ。そうしておいたら、俺と直接、戦うような羽目に陥らなかったんだからさ」


これは、単純な疑問から出た挑発だった。


そう、どうして、メアリは1人なのだろうか。


この建物が青岸によって、こういう異常事態になった時点で、専門家としての組織が使われる事は容易に分かる。


だが、すでに現場を離れたメアリが、しかも、単独で建物の調査をするなど、通常では考えられない。


「黙りなさい。貴方には関係ないわ」


予想外に痛いところを突いたのかもしれない。


それならば、さらに予想外を突いて、主導権を握ってやる事にした。


俺は、敢えての一歩を踏み出す。


自動で発動する俺の特異性『消去』は、あからさまなまでに防御特化だ。


しかし、相手を敵と認識しているならば、攻撃として使えないわけではない。


要するに、拳を繰り出し、或いは蹴りを飛ばし、相手の触れた部分を消してやれば良いのだから。


それを実行しようとした俺は、まあ、メアリもそうだったようだが、面食らってしまう。


俺の一歩と時を同じくして、彼女も飛び出していたのだ。


だが、一歩ではない。


ほぼ一瞬で、俺の間合いを侵略し、鳩尾に凄まじい早さで手刀を突っ込んでいた。


衝撃、蹲り、痛み、絶望、涙、恐怖、全てが瞬く間に通り抜け、俺は地面に突っ伏して呻き声を上げる。


何故、『消失』が発動しない。


自動的に俺を守り、俺を救ってきた無敵の力が、何故。


その時、頭上で叫び声を聞く。


メアリだ、狂おしく叫び、絶望している。


俺は見上げ、手刀を放った彼女の右手が、消えているのを確認する。


「えっ…?」


発動していたのだ、『消失』は。


だが、俺もダメージを負った。


その時、天啓が走る。


ああ、なるほど、そういう事か。


メアリの攻撃が速すぎて、自動的でも反応が遅れているのだ。


俺は何もなければ、恐らく、あの右手を突き入れられていたのだろう。


そう、比喩ではなく、文字通り、内部に手が突っ込まれ、抉られたのだろう。


それを俺の『消去』は防いでくれた。


だけど、突きという攻撃、その切っ先が当たる瞬間にまでは、間に合わなかった。


肉を切らせて骨を断つ、その言葉が頭に出てきて、俺は身震いする。


今まで、絶対的安全圏で、俺は戦ってきた。


痛みを負わず、ただ、余裕綽々で。


それが今、表舞台に無理矢理、引き出されたのだ。


「何をしたっていうのよ、このクズ、アタシの右手を返しなさいよ、愚図!」


背中に、踵が落ちてくる。


のたうち回りたくなるほど、痛い。


それでも、痛みを負えば、メアリの右足を今度は奪う。


勝ち誇る余裕など、無い。


痛みで言葉も上手く作れず、笑えず、無様に転がって彼女と距離を取る。


右手と右足を失って叫び狂う女と、次の痛みにただただ怯える男が、ここにはいる…。

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