演技
「青岸さん、こちらがこの部署を指揮されているオシさんです。オシさん、新人の青岸さんです、後はよろしくお願いしますね」
「分かりました!」
オシは元気良く応じたのだが、その時、一緒に出た笑い声がひどくわざとらしい響きで、絶対にこの男は面白さなどを感じて笑っているのではないだろうという事が窺えた。
総務の某さんは満足気に頷いて去っていったのだが、本来的には彼女は満足すべきではないと思う。
某さんはその異常に聞き取りにくい滑舌と、何故か、名前を言う時に生じる無駄な緊張感のせいで、自分の名前を俺に理解させられなかったし、オシも実際は普通の日本人みたいに見えるわけで、オシという名前ではないだろうに、俺にオシと認識させてしまったというミスがあるからだ。
まあ、押であるという可能性も僅かには存在するだろうし、紹介された場所自体が喧騒に満ちていたというフォローも出来るだろうか。
「おーい、カラ君。新人の青岸くんに仕事を教えてやってくれ」
俺のフォローを正当化するように、今度はオシがカラという男に声を掛ける事になった。
まあ、カラというあだ名の可能性もあるかもしれないし、唐なのかもしれないが、やはり、この異様なまでの音が聞こえにくくしてしまっている要因なのだろう。
「あぁ、あの、えっとですね…、僕も入ったばかりで分からない事もあるんですけど、とりあえず、今からやってもらう事はこの現場の基本的な作業って言うか、毎日ある事で、その…、えっと、あそこにトラックやコンテナがつけられて、そこからローラーを伝って荷物が流れてくるんで、それを台車の上に4段や5段で積んでいってもらう感じです」
まあ、所謂、肉体労働というわけだ。
荷物に触れてみる、20キロといったところだろうか。
常人が積む速度を見る為、カラの動きを観察する。
片手で充分だろうに、両手両腕どころか、それこそ全身を使って 、必死に積んでいっている。
真似をする、ただし、カラよりも遅くして。
先輩よりも仕事の出来る後輩は嫌われるだろうから。
滑稽さに、笑みを閃かせながら。