青岸の迷い
そして、決行の朝。
俺はカズトを見ていた。
昨日、俺がブッチデヨに灰色の世界へと連れ込まれた場所に、彼は来ていた。
何の手掛かりもなく、ここまで辿り着いたのだろうから、俺は情報屋としてのカズトを評価する気になった。
評価したからには、俺もそれに報いてやる事にした。
手が入るくらいの灰色をあからさまではなく、極めて自然な形で出現させてやる。
そう、まるで、カズトが自ら発見したような気分になるように。
「小さいな…。このサイズで、青岸を吸い込んだりしたのか?」
用心深い奴の性格か、灰色に対して下手に手を伸ばしたりはしない。
そういう事をすれば、忽ちにこちらへと引き込んでやっても良いのだが。
「そろそろ、潮時か…」
そう呟くのを聞いて、俺は我慢できなくなってしまう。
こいつがこの建物を去ろうとしているならば、こちらに引き込んでやらねばならない。
そして、俺に従わせてやるのだ。
「まあ、それなりに儲けたし、悪くはなかったか」
「ここを抜けると決めたな、カズト!だったら、お前もこっちに来てもらうぞ、アァ!」
自然と叫んでいて、同時に俺は灰色から外の世界へと右手を伸ばしてもいた。
「調子に乗るな、雑魚が。俺の『消失』で消されたいか?」
ビクッとして、俺は伸ばして掴もうとしていた右手を止めた。
そうだ、こいつは何でも消してしまえる、そういう奴だった。
慌てて、右手を引っ込める。
警告無しに、逆に掴まれていたりしたら危なかった。
いや、しかし、本当はどうなんだろうか。
掴まれて消されていたとしても、一度、殺されてしまえば、灰色の世界で元に戻れるのだろうか。
そういえば、子供達がカズトに挑み、何度も消されているのに灰色の世界では復活しているわけだから、俺も消されても同じはずなのだ。
そういう確信を得て、それでも、俺は再び、手を伸ばそうとはしなかった。
今、カズトの手を掴んだとしても、ただ、俺は消されるだけで、そうして復活するだけで、何の得もしないからだ。
肩を竦めて立ち去るカズトを見つめながら、実際にこいつを負かしてしまうにはどうすれば良いのか、俺は真剣に考えなければならないと思った…。