最強の演出
メアリが3名の部下を率いて、建物に侵入してきた。
何故なのか、俺が見過ごしてやると確信しているのだが、皆殺しにするつもりの俺は見逃すわけもなく、無造作に放った衝撃波は全てを消し去ったつもりだった。
しかし、何のミスが起こったのか、建物への侵入を拒んでいた3名とメアリの部下が3名、それだけを殺して、メアリだけが生き残ってしまった。
「どういうつもり?」
その質問に対する答えとして、俺が用意できるのは俺のミスという答えだけだった。
まあ、わざわざ答える義務もなかったし、建物の内部は後回しにしようと思っていたので、すでに内部に侵入を果たしてしまった上で生き残ったメアリは後回しにする。
まずは、建物の外を掃除しよう。
生かしておいても、見逃したとしても、然程、何かがあるわけではない。
だが、皆殺しは皆殺しであり、そこを曲げても仕方が無い。
建物の外に出て、組織のメンバーを次々と殺していく。
見知らぬ顔ばかりだったが、たまに知っている奴もいた。
まあ、関係なく、容赦なく、逃げる奴は執拗に追い回して必ず殺した。
そうして、残ったのが王子だけだった。
これは、さっきのメアリと違い、意識して残した。
元々、共通の目的を持ち、一緒に戦い、語り合った仲だ。
簡単に殺してしまうのは、違う気がした。
それに、印象深く殺しておけば、建物の内部に入った時も楽しみ方が違ってくる。
「久し振りだな、王子」
王子の元に歩み寄りながら、俺は気楽な調子を演じて声を掛ける。
彼は面食らったようだったが、僅かに戦意が弛緩したのを見て失望を覚える。
「ああ、久し振り。ジョージとの戦い、見てたよ」
「ああ、アレも見られていたか。情けない事に、奴には右腕を奪われてしまった」
「まあ、相手はあのジョージだから、仕方が無いと思う」
そんな風に応じ、彼は何故か笑っていた。
相手がジョージだったから、仕方が無い。
あまりにも愚かな意見だ。
結局、ジョージは強いが、俺がそれを押し潰せるくらいに強くなかったのが、この結果を生んだに過ぎないのに。
「仕方が無い、か…。まあ、そうだろうな。そこくらいが、お前にはお似合いだ。だから、俺はお前にはあまり期待していなかった。それでも、少しは期待していたんだ。期待を裏切ったな、王子?」
気楽な調子のまま、内容は尖っていても、雰囲気は維持したつもりだった。
それでも、王子の中にある危険信号がけたたましく警戒をさせたのだろう。
彼は飛び退ると同時に、全ての蛇と1頭の獅子を俺に向かわせていた。
戦いを始める。
いや、殺しを始めるのだ。
仲間殺しという演出に沿って、俺は衝撃波で彼の戦力を全て薙ぎ払う。
「俺を…殺す気か?」
そうだ、勿論、殺す気だ。
敢えて、それは告げずに近付いて行く。
王子の眼前に立ち、俺は左手を彼の正面に広げた。
そして…。