王子の揺らぎ
最強が何を考えているのか、建物に入ったり、外に出てきたりを繰り返している。
まあ、そのたびに死者の数を増やしているわけだから、目的は殺す事なのだろうとは思う。
戦う決意をしたものの、どのタイミングでどういう風に切り込んでいくか、そこで迷ってしまって偵察を仕掛けるように蛇を1匹、入口付近に配置したままでどうにも動けない。
そんな俺を無視して、組織は8割方の戦力を失った後で、メアリを先頭に古株のメンバーが3名続いて、建物へと侵入するに至っていた。
一瞬、最強は確かに彼女達を見逃す素振りを見せたし、建物の人間を牽制する事さえもした。
だが、次の瞬間には、建物の人間と組織の古株3名をまとめて衝撃波で消し飛ばしてしまう。
メアリだけが生き残ったのはたまたまであり、恐らく、最強に意図するところなど無かったのだろう。
その証拠に彼女の問い掛けは無視して、また、建物の外に出てきた。
そして、残っていた組織のメンバーを次々と殺し始める。
8割方が死んだ時、好戦的な実力者は皆殺しにされており、残っていた面子はあまりにも無力だった。
逃げようとした者も執拗に追いかけられ、殺されるという光景はあまりにも酷く、周囲の一般人も目を背けている。
「だけど、こうなった以上、迷う必要は無くなったわけだ。戦わずに尻尾を巻いて逃げたとしても、今の奴が見逃してくれるとはとても思えないしな」
偵察に出していた蛇を戻そうとしたが、それを見透かしたかのように最強が衝撃波を放ち、蛇は消滅してしまう。
1匹とはいえ、俺の戦力だ。
それを失ったのは、この場合、少し大きい。
やがて、組織のメンバーを、たまたま殺さなかったメアリを除き、全て殺し尽くした最強が、俺の方に向かって歩みを進めてくる。
「久し振りだな、王子」
まさか、声を掛けてくるとは思わなかったので、俺は戸惑ってしまう。
もしかしたら、戦わずに済むのかもしれない。
「ああ、久し振り。ジョージとの戦い、見てたよ」
「ああ、アレも見られていたか。情けない事に、奴には右腕を奪われてしまった」
「まあ、相手はあのジョージだから、仕方が無いと思う」
普通に話せている。
そうだ、元々、最強とは仲間だったのだ。
特に、決定的な仲違いをした記憶もなく、相争う何かがあるわけでもない。
血の臭いに刺激されて戦う気になってしまっていただけで、そんな必要は全く無かったのだ。
自然と笑みがこぼれる。
「仕方が無い、か…。まあ、そうだろうな。そこくらいが、お前にはお似合いだ。だから、俺はお前にはあまり期待していなかった。それでも、少しは期待していたんだ。期待を裏切ったな、王子?」
何がそうさせたのかは分からない、和やかな雰囲気が消し飛んでしまったと思ったわけですらもない。
それなのに、俺は飛び退ると同時に、全ての蛇、1頭の獅子を最強に向かわせていた。
そうしておいて、衝撃波が獅子も蛇も飲み込み、消滅させてしまってから、ようやく理解した。
「俺を…殺す気か?」
何も言わず、最強が近付いて来る。
再び、獅子と蛇を出したところで、何の意味もない。
最強が左手を伸ばし、俺の視界が彼の左手に覆われる。
そして…。