青岸祭
時は満ちた。
まあ、誰しもが帰ってしまったわけだ。
そして、そうなったからこそ、この建物を泳ぐ者が現れる。
「何とも、まあ、シュールな光景だ」
ストラが泳いでいた。
「では、引っ張り込むぞ」
「ああ、頼む」
力任せという事ならば、青岸や子供達ではなく、ブッチデヨこそが最適であった。
とりあえず、俺が『ビルメン』で最適な場所を選び、子供達が灰色を素早く展開するなど、一応の役割分担はあったりする。
灰色の世界から外の世界に向け、ブッチデヨが右手を突き入れ、ストラの腕をむんずと掴み、一気に引っ張り込んでしまう。
「何やってるんすか!」
この状況、自分が巻き込まれた事態について、こうも普通の反応を示されて、俺は少し面食らってしまう。
ちなみに、この反応は全て説明してやった後のものなのだから、目も当てられない。
「話、ちゃんと聞いてたかよ、おい」
「聞いてたっすよ。だから、言ってるじゃないっすか。何やってるんすか!」
「いや、何やってるって、お前を仲間に引き入れようとしてだな…」
「仲間…っすか」
ポカンとした顔付きで、ストラは呟く。
そういえば、灰色の世界について説明はしたが、そして、そこに引っ張りこんだ事も言ったが、仲間にしようとした事については言っていなかった。
「俺を仲間に誘ってるんすか?」
「ああ、そうだ」
「嬉しいっすね。そういう事なら、よろしくっす!」
「えっ、いいのか…?」
「モチのロンっすよ、ロンっす!」
意外なほど、簡単だった。
いや、もしかしたら、俺は今までの人生における不運を精算するように、幸運という道を突き進み始めたのかもしれない。
「よし、決めた!明日、この建物を占拠する。そして、ここを足掛かりにして、俺の、…いや、俺達の祭りを始めよう!」
子供達がはしゃぎ回り、ブッチデヨが豪快に笑い、ストラが小躍りする。
世界を征服してやる。
全てを俺に従わせてやるのだ。
ここから、俺の勝利が始まり、続き、終わり、完結するのだ…。