嘘と真実
「荷物はこのロッカーに入れて下さい。説明したとおり、私物の持ち歩きは禁止されていますから、財布や携帯電話もロッカーに入れておいて下さいね」
鍵付きのロッカーとはいえ、この程度なら3秒で開けられるし、本当に全てをこの中に放置しているなら、無警戒にも程があると思う。
手狭なロッカーにまず、コートを放り込む。
ロッカーの隣にある剥き出しのハンガーラックに掛けたらどうかと言われたが、笑って首を横に振る。
鍵すらも無いからとか、そういう理由ではなく、放り込んだコートをわざわざ取り出すのが面倒だっただけだ。
リュックを放り込み、財布をわざと見えるように意識して入れる。
金に執着はないから盗られても構わないし、身分証は偽物だからどうでも良いし、他の物だって見栄えを整える為に入れているだけだから、別に気にする事はない。
ある意味、盗ってくれたら盗ってくれたで、それを発端として目的に近付きやすくなるかもしれない。
鍵を閉めて立ち上がると、怪訝そうな顔をした某さんと視線が合う。
「あの、携帯電話もロッカーに入れて下さいね」
「あ、携帯は持ってないんですよ」
嘘じゃない、本当だ。
「携帯の料金を払わずにいたら、止められちゃって。金が無かったんですよ」
嘘だ、そんな間抜けじゃない。
某さんは、恐らく、正社員なのだろう彼女は、可哀想な子を見るような視線を向けていて、俺はそれに対して馬鹿そうな笑顔を見せておく。
「では、行きましょうか」
「はい」
俺はゆっくりと歩き出す、スマホをポケットに忍ばせたままで。