光と闇の襟櫛
沈黙が続いていた。
山田は水に言葉を奪われていて、俺は何も話す気になれなくて。
ここで待っていてカズトと合流できる保証なんて何一つとして無いのに、どうにも動く気にならない。
だが、いい加減、動かなくてはならない。
そう思って口を開きかけた時、館内から扉が勢い良く開け放たれた。
「ストラの奴、真実を教えてくれたんだな」
カズトだ。
そこから、カズトが語った内容は興味深く、同時に不快だった。
「へぇ、アイツらが俺達を人質にしてるって言ってたんですか…」
別に意識したわけではないが、俺は山田を何となく見ていた。
勿論、変な意味に捉えられても困るので、すぐに視線は逸らしたが。
「おっ、山田氏、そのままだと意見を言う事も出来ないな」
そう言ったカズトが、山田の顔を覆っていた水を消してしまう。
「これで、喋れるようになった」
カズトは無邪気に笑う。
仲間思いの彼らしい優しさが垣間見えた。
「ありがとうございます。このお礼はいつか必ず…」
「いやいや、仲間の危機を救うのは、当然ですよ」
何を警戒しているのか、山田の態度はどこか余所余所しい。
まあ、山田の事は忘れて、俺には後悔を払拭しておく必要があった。
「それで、次はどうしますか?青岸を殺しに行きますか?」
山田を守ってやらなくても良くなった以上、全ての根源であろう青岸をさっさと殺しに行きたいのだ。
「いや、それよりも、まずは王子と合流しよう。巻き込んだ責任もあるし、仲間は大事にしなくちゃならない」
ハッとさせられた。
ついさっき、王子がここに向かっていると聞かされたばかりなのに、その事には全く頭が回らなかった。
「そうですね!確かに、仲間は大切ですよ。合流を最優先にしましょう!」
俺はカズトのこういう性格が好きなのだ。
一回り以上も年齢が離れているにも関わらず、行動を共にし、一緒に戦い、絆を強くしていける理由になっている。
王子も山田も同志ではあるが、カズトとの絆ほどには強い結び付きを感じない。
「…分かりました、それでいきましょう」
山田はそんな風に応じたが、溜息を吐き出して首を振っているところを見ると、とても納得しているようには見えない。
仲間との合流を最優先にするという事のどこにそんな不満を覚えるのだろうか。
だいたい、そもそもがカズトとの合流を最優先にしようと決めたのは山田なのであり、王子との合流は駄目だとするならば、話が通らないだろう。
結局、分かり合えない時は分かり合えなくて仕方がないのだろうか…。