カズト、動く
「お疲れ様です」
王子の声が耳を撫でる。
「厄介な事になった。今、こっちに来れないか?」
「何があったんですか?」
この場で真意は口に出来ないし、下手な嘘は王子に疑いを抱かせかねない。
「話して説明するよりも、こっちに来てもらった方が良いと思う」
少しだけ焦っている風を出した。
「分かりました、今すぐ向かいます」
「頼むよ」
分かってくれたようで良かった。
そして、俺は現状を分かってくれてなさそうな目前の2人を見やった。
「王子は呼んだぜ、これで文句は無いよな?」
「ああ、文句は無い」
「そうっすね、文句はないっすよ」
沈黙が流れる。
やはり、このまま解散という事にはならないのだろうか。
「で、どうする?今から、俺と戦うか?」
「わしは戦わん、お前とは因縁が無いからな」
因縁。
ブッチデヨはジョージのように、誰かと因縁があるのだろうか。
「因縁っすか。まあ、因縁があると言えば、因縁があるっすね」
因縁、なのだろうか。
ブッチデヨとは確かに何らの関わりも無いが、ストラとは数日だけ一緒に働いた事がある。
だが、しかし、あれは因縁になるのだろうか。
まあ、頭数を削っておくのも悪くはない。
「じゃあ、やるか」
「いや、やらないっすよ」
拍子抜けしてしまう。
「ま、楽しみはとっておくさ」
ブッチデヨとストラが灰色の中に消える。
そこで、俺はようやく息を吐いた。
「さて、これからどうするかな…」
襟櫛や山田と合流すべきか、或いは王子を出迎えに行くか、本業に取り掛かるか。
「まあ、とりあえず、屋上かな」
ストラが嘘を言った可能性はあるにしろ、まずは襟櫛や山田と合流したかった。
階段に向かって駆け出した時、入口の方から凄まじい怒号が轟いた。
足を止め、そちらを見やるが、突き当たりを右に曲がって開き戸の向こうにある入口は当然、見えなかった。
「随分と派手だな…。だけど、もっと派手にやってくれよ。そうしてくれた方が、動きやすくなる」
別に、俺の要請に応じてくれたわけでは無いだろうが、入口の方から聞こえてくる音はどんどん大きくなっていく。
少し興味はあったが、俺はそれを振り切って、階段を駆け上がり始めた…。