メアリの決意
皮肉だった。
結果的に、ではあるが、メアリは最強に接近する羽目に陥っていた。
建物の入口は1つだけで、そこで最強顔面に足止めを食っていた。
「何をやってるのよ、最強のくせに…」
らしくなかった、そうだ、最強らしくなかった。
建物の入口を守っているのは、確かに歴戦の雄、凄腕の手練れ達かもしれない。
だが、最強は最強であり、それは厳然として揺るがない事のはずなのだ。
それなのに、最強は足止めを食っていた。
「やむを得ませんな、メアリ様、やむを得ません」
嬉しそうに、喜びを隠せぬように、大津が言う。
悪い虫が蠢き始めている。
「何が言いたいの?」
「現状を見て下さい。建物の件を最優先にするなら、ここで最強の観察をしていても仕方がないでしょう。最強と、門番どもの戦いに介入し、あそこを突破する必要があります」
捨て駒だ、大兄弟は捨て駒にすれば良い。
「分かりました。では、大兄弟に命じます。あの戦いに介入し、道を切り開きなさい」
「兄貴、行きましょうや!許可があれば、大手を振って行けますよ!」
「いやあ、待て待て待てぇよ。メアリぃさんにも勝てんわしらあが、2人っきりでん最強は無理ざ」
嫌な予感を覚えた。
先程までと違い、大津が道化を、大市が冷静な仮面を被っている。
「では、どうしろと?」
こう言わざるを得ず、こう言わされては失策を認めた事になる。
「建物にゃ入らな駄目だぁな?」
「ええ、そうね」
誘導されている、だが、下手な事を言っては致命的になる。
「全軍突撃、組織の総力で、最強を、門番どもを、撃滅す」
「何を言ってるの?そんな事をしたら…」
「兄貴の言葉を聞いたか、野郎ども!やっちまおうぜ、最強を討って手柄を挙げる、門番どもを皆殺しにして建物に突入する、一挙両得だ!」
頭の悪い武闘派が雄叫びを上げ始め、その熱気が狂気へと変貌を遂げていく。
止めなければならない、止める必要がある、だが、どうやって止めれば良いのだろうか。
迷っている間に、普段は慎重な者達までが狂熱に浮かされていく。
「最強を殺せ!」
「建物に突入しろ!」
大兄弟を先頭に全員が駆け出していく。
緻密さの欠片も無い群れと化し、戦場へとなだれ込んでいく。
「組織が…」
結成から今日までの日々が頭の中を過ぎていく。
こんなにも脆く儚いものなのだろうか。
「全部全部全部全部全部全て何もかも最強が裏切ったせいよ!」
そして、奴を思い出す。
「青岸、アイツも殺す!」
最強と青岸のせいで、全てが狂ったのだ。
奴らを殺して、ようやく、組織は平常運転に戻る。
さあ、そうと分かってしまったなら、早速、奴らを殺しに行こうか…。