最強の歩く道
「久し振りですね、最強さん?」
名前も知らない新入りの守衛だった。
まあ、守衛なんて、古株だったとしても名前なんて知らなかったが。
中肉中背で、特徴らしい特徴のない顔をしている。
まあ、所謂、記憶に残らないタイプで、守衛なんて立場にはそれが相応しいのかもしれない。
相応しくないのだとしても、知った事では無かったが。
左手を払う、それだけで消せるはずだった、そのつもりだったが、守衛は生じた衝撃波を素早く横に飛んで避けた。
「いきなりですね、危ない危ない」
口調は柔らかいが、笑ってはいない。
「ただの雑魚ではないか…」
「ここの守衛になるにはね、求められるモノがあるんですよ」
「語りたいなら、さっさと語れ」
「求められるモノは、圧倒的な攻撃性能を有する特異性。私の真殺はこの世界で唯一、真の殺戮者に相応しい」
「そうか、良かったな」
「怯え震え祈りながら逝け、最強よ!」
右に左に忙しなく移動しながら、背後に回り込む。
「真の殺戮者か、なるほど…」
手刀が首筋にまで迫った時、反射的に振り返って右手を使おうとして苦笑する。
「そうか、こっちはもう…」
呟きながら、動作無しで衝撃波を発動する。
今度は守衛の方から接近していた手前、さっきみたいに避ける事は出来ず、存在全てを掻き消してやった。
「次はお前達か?」
振り返り、つまり、元々、向かっていた方向に視線を転じると、守衛の古株が2人立っていた。
どちらも年齢は50代後半だろうか、一方は動きの悪そうなデブ、もう一方は隙のない身構えをしたグラサン男。
「図に乗るなよ、最強」
「彼は守衛四天王で最弱の人でした、瞬殺しても自慢にはなりませんよ」
先にグラサンが、続いて補足するようにデブが口を開く。
「真の殺戮者を自称していたが、最弱か。真の最弱者…、悪くない響きだ」
「俺から行く、お前は手を出すなよ」
2人の弱い方、グラサンが進み出た。
「分かりました、頼みましたよ」
デブがゆったりと後退る。
「俺の名を知ってるか?」
「いや、雑魚の名前を記憶しておく気遣いは無い」
「月景幸雄、聞いた事は?」
「血染めの月景一族か…」
「最強でも、月景一族は無視できなかったか!」
「ああ、そうだな。だが、『戦列鬼』月景正範以外は、雑魚だろう?」
「俺は月景正範を殺して新たな『戦列鬼』として一族に認められた」
「そうか…。じゃあ、『戦列鬼』月景幸雄という事だな?」
特異性『戦列鬼』は、俺の『最強』と同じタイプで、異名に近しいものがある。
人間の戦列に鬼が1匹だけ混ざる。
つまり、群を抜いているという意味だった記憶がある。
俺はグラサンに向かって歩いていく、グラサンも俺に向かって歩いてくる。
一触即発の距離、睨み合う俺とグラサン。
「月景正範も所詮、噂だけか…」
無造作に左手を伸ばし、グラサンの顔面に衝撃波を叩き込む。
全く、ただの一瞬すらも反応できず、グラサンの頭部は消し飛んだ。
少し興味を持った分、失望が大きい。
「な、何で、どうなりました…か?」
デブが茫然自失の態で呻く。
「見て分からなかったか、飛べよ」
巨大な衝撃波をぶつけてやると、デブは敷地外まで吹っ飛んでいった。
まだ、生きているかもしれないが、興味はない。
守衛四天王、そう、四天王だ。
4人目、その老人には去年の時点で興味を持っていた。
建物の入口に達した時、俺の興味は期待へと昇華した。
老人だけではなく、他にも何人もいた。
「やはり、奴らでは足止めできんかったか…」
「お前が数を揃える時間稼ぎはやったんだから、褒めてやったらどうだ」
「最強よ、お前さんはここで死ぬ。…良いな?」
笑う、まだ楽しむ余裕が俺にはある…。