誇り高き王子
「おいおい、冗談だろ…?」
あの『最強』と、あのジョージが戦っていた。
組織に所属している、或いは所属していた者なら一度は想像してしまう夢の対戦だった。
『最強』が最強なのは、俺も認める。
桁違い、桁外れ。
自分とは立っている場所が違う。
でも、ジョージも常軌を逸したキチガイじみた強さを有していた。
『最強』の衝撃波と、ジョージの『破天荒快男児』がぶつかり続ける
この戦いに決着などあるのだろうか、そんな事すら思えてしまうほど、本当に拮抗しているように見えた。
だが、しかし、決着は案外、早かった。
『最強』が右拳を突き出して放った最強の衝撃波に、ジョージが右拳を突き出して応じた『破天荒快男児』。
「結局、『最強』が最強か…」
右腕を失った『最強』と、敗北したジョージ。
俺は何度も、ジョージに殺されかけた。
そして、何度もジョージを殺そうとした。
それなのに、敗北したジョージを見て、寂寥の思いを感じている自分に驚きを隠せない。
『最強』が去った後、何故か復活したジョージが、だが、動けずにいる姿を見て、最後くらいは俺が殺してやろうと考え、蛇を彼に向けて這わせる。
もう少し、もう少しで彼の首を狙える。
その時、『灰色』から青岸が出現し、俺は蛇を止める。
「青岸…、あの雑魚、何の用だ?」
蛇に聞こえる音は、俺にも聞こえる。
青岸はどうやら、ジョージを従えたいようだった。
しかし、あの『破天荒快男児』ジョージが、瀕死になっているとはいっても、青岸如きに従うわけがないのだ。
そういう確信をしていて、それなのに、やがて訪れた答えは失望に値した。
ジョージを灰色に連れ込む青岸は最後、俺に向かってニヤリと笑った。
「こっちに気付いてやがったか、あの雑魚…」
もしかしたら、俺は青岸にこそ、怒りを覚えるべきなのかもしれない。
だけど、俺はジョージに怒りを覚えていた。
青岸なんて眼中になく、ただただ、生に執着し、誇りを失ったジョージに。
「因縁か…。アンタを最初に狂わせたのは、俺だ。それなら、アンタを葬ってやるのも俺であるべきなんだろうな」
そう、『最強』のおこぼれではなく、俺が俺自身の手によって、ジョージを殺すのだ…。