メアリの組織
ジョージを殺す程度の事で、あの『最強』が右腕を失う事になるとは僥倖と言えた。
これは、とても幸先の良いスタートだった。
やはり、私は神に愛されている選ばれた存在なのだ。
「おぃい、メアリよぉ?」
「あ?」
いきなり、部下に呼び捨てにされて、本性を垣間見せてしまう。
「あの、メアリ様、少しよろしいでしょうか?」
「ええ、何?」
「わしら、最強を片付けてくるわ。建物が云々とか、そんな些事じゃランクは上がらんしのぉう」
大市の発言に、溜息が出てしまう。
「メアリ様、僕達を信じて下さい。大兄弟は必ずや、最強殺しを成し遂げてみせます」
大津が丁寧な口調で言う。
大市と大津は盃を交わし合ったとかいう義理の兄弟で、自分達の事を大兄弟などと名乗っている。
まあ、確かに大兄弟は、率いている部下の中ではまずまずの一級品と言えた。
それでも、右腕を失ったとはいえ、相手はあの『最強』だ。
「最優先は建物の問題を解決する事です」
原則は原則であり、守るべきは徹底する。
それに、『最強』がさらにダメージを負う可能性がある以上、今、ここで焦って手を出す意味は皆無なのだ。
「だがのぉう、メアリィちゃんよ、裏切り者の始末ァ、組織の最優先事項ょお。そぉいうトコ、ちゃんと考えんと、こっから裏切りモンがボンボン出るぞィ」
「私に逆らう気ですか、殺しますよ?」
「カリスマ特化のメアリ様が、僕達を殺せますか?」
大津は言葉遣いだけは丁寧だが、基本的に大市の思考に依存する傾向が強い。
結局、粗暴であろうと、丁寧であろうと、大兄弟の主張は同一なのだ。
「カリスマ特化の私では、貴方達を殺せないと?」
嘗めるな、と言いたい。
私が単独で殺せないと思ったのは、『最強』とジョージだけだ。
その他大勢が、調子に乗るな。
「大津よォい、こいつを殺しちまって、組織をわしらあのもんにするのもアリだなぁあ」
音はあっただろう、音もなく近付いたわけではない。
スッと自然に距離を詰め、サッと手を伸ばす。
私は女にしては高身長で、だから、伸ばした手は大市の顔に運良く届いた。
そして、そのまま、左目に指を突っ込み、眼球を抉り出す。
ソッと離れ、眼球を捨てる。
「兄貴!」
「クオウ、カッ、クッ…」
意味のない言葉を吐き、大市が左目のあった場所を押さえて蹲る。
「何で避けなかったんですか、兄貴?」
ショックで返事できない大市を見下ろしながら、私は手についた血を舐める、不味い。
「避けられなかったから、避けなかった。そんな事も分からないのかしら、坊や?」
大兄弟は捨てる。
その判断をした時、私は躊躇なく、彼らを殺す事にした。
「このクソ雌が、ブッ殺してやる!」
丁寧な大津にしては珍しい毒の吐き方だ。
まあ、大市と気が合うのだから、本質も似たようなものなのだろう。
「やめろ、大津…。実力差でこうなっちまった以上、従うしかねぇ」
そして、また、意外だ。
激昂するかと思っていた大市が冷静な判断をしている。
「兄貴…」
「メアリ…さんよお、左目は勉強させてもらった分として、何も言わねェわ」
「そうですか、分かりました。貴方達に対する厳罰は全てが解決した後に下しましょう。勿論、功績を挙げれば、罪を贖う事も許します」
大兄弟が頭を下げる。
勿論、彼らが本当に改心したなどという妄想はない。
形だけなのは分かっているが、それでも充分だった。
彼らはいつでも殺せる捨て駒だ。
そして、何よりも重要な事は、組織が再び、私の手に完全に掌握された事なのだから…。