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青騎士  作者: シャーパー
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青岸のアオキシの青騎士

時は少し遡る。


そう、昨日の夕方だ。


俺が、この俺が、ブッチデヨ如きに不覚を取って、灰色の中に連れ込まれてしまった時だ。


目の前には満面の笑みを浮かべたブッチデヨがいて、そして、俺。


「どうだ、青岸よ!」


「どうだって、何がどうなんだ?」


「わしによって、この灰色の世界に引き摺りこまれた気分はどうだと聞いておるのだ!」


「ああ、それか…。まあ、自業自得だしな」


言葉ほど、納得はしていない。


そもそも、自業自得ではない。


「青岸、何を企んでおるのだ!」


「別に、何も企んではいない。今、俺達に共通して重要な事は何だ?」


「わしは、何も共有しておらんからな!」


共通であって、共有ではない。


頭だけではなく、耳まで悪いとは、気分が悪くなる。


「俺達にとって重要なのは、ここをどうやって抜けだすかって事だろ?」


ブッチデヨの表情が翳る。


「どうしたよ?」


「…わしだって、色々と試したさ。だが、駄目なのだ。ここから脱け出す事は不可能だ…」


「おいおい、ブッチデヨさんよ、お前が俺をここに引っ張り込んだのは、泣き言を聞かせる為か?」


縋るように、ブッチデヨは俺を見てくる。


俺は確信した。


こいつは結局、誰かに助けて欲しかっただけなのだ。


「おい、ブッチデヨ、俺の特異性は『ビルメン』だぞ」


「お、おう…」


「もっと喜べよ。俺の『ビルメン』なら、脱出する場所を探すのも簡単なんだぜ」


「そうか、そうだ!そうだぁ、そうだったな!頼んだぞ、青岸よ!ここから、わしは抜け出したいぞ!」


「それは無理だよ、オジサン達…」


いきなり声がして俺はギョッとするが、ブッチデヨはどこかウンザリしたような表情を浮かべていた。


少年が立っていた。


左目が潰れている。


ここは、灰色の中なのだから、6階で襲ってくる子供達がいても、何ら不思議はない。


一応、いつ襲われても大丈夫なように、身構える。


「大丈夫だ、青岸よ。見た目は歪だが、何もしてこんよ」


「そうは言ってもな、俺は何度も襲われているんだ」


「それは、オジサンが外にいた時の話でしょ?この世界に来たら、みんな友達だよ」


勝手に友達にされても困るのだが、まあ、ここを脱け出すまでの辛抱だ。


「それで、何が無理だって言うんだ、お前さ?」


「その前に、名前を教えてよ」


まず、お前が名乗れよ、と思わなかったわけではない。


ただ、こいつの名前を知ったところで、俺に得は何もない。


同時に、俺が名乗るのは偽名なのだから、知られたところで、損もない。


「青岸だ」


「青騎士!」


何か、発音が違う気がする。


「おい、勘違いすんなよ。俺の青岸ってのはな…」


説明しようとする俺を無視して、ガキははしゃぎまくっている。


「みんな来てくれ、集まるんだ!ついに、伝説の青騎士が来てくれたぞ!」


わらわらと、ガキが湧いてくる。


相変わらず、どいつもこいつも、どこかしらが欠損してやがる。


全員が全員、まあ、両目を潰されてる奴らもいるから、そいつらまでは確証がないが、見事に憧憬の眼差しを俺に向けてくる。


「何なんだよ、いったい!」


「青騎士、僕達は貴方を待っていたんです!」


「アオキシを…?」


少しだけ、俺は少年の方に発音を近付ける。


「はい!」


「ねぇ、本当にその人が青騎士なの?」


「俺達を騙そうとしてんじゃねぇの…」


懐疑的な流れになってきた。


憧憬の中にも、疑いが生じ始めたようだ。


「青岸は青岸だぞ!」


馬鹿なデブ、ブッチデヨが大声で主張する。


「ブッチデヨは馬鹿だから、アタシ達を騙す知恵が無いと思います」


的外れなのに、実に正しい意見だ。


「みんな、やめてくれよ!最初に名前を聞いて、青騎士って答えてくれたら、それが青騎士って証拠だよって決めたじゃないか!この人は青騎士だよ、そう決まってるでしょ?」


最初の左目が潰れた少年が、大声で主張する。


「でも、青くもないし、騎士っぽくもないよ」


ああ、青騎士ね。


ここにきて、俺はようやく理解した。


まあ、しかし、青岸は偽名だし、青騎士なんて全く無関係だ。


「それは、前に話しただろ!青騎士は青いから青騎士じゃないし、騎士だから青騎士じゃないんだよ!」


だったら、何が青騎士なんだろうか、青騎士にされかかってる俺からして、意味が分からない。


「青騎士は青騎士って名乗ったから、青騎士なんだよ!」


なるほど、俺が青岸と名乗って、聞き間違えで青騎士となるわけか。


「で、結局、俺はどうしたら、青騎士だって信じてもらえるんだ?」


ちょっとした悪ノリだった。


「青騎士は何でも知ってて、いつも人々を導いてくれるんだよ」


そういう奴の事を、俺は神と呼ぶだろう。


まあ、神ならぬ身の俺としては、発言した歯抜け少女に見覚えがあったりした。


「何でも知ってるわけじゃないが、お前の歯を抜いたのはガリガリでハゲたジジィだったよな?」


6階で『ビルメン』を使った時、強制的に見せられた拷問シーンの一部、その歯抜け少女の事は憶えていた。


「わたし、誰にも言った事なかったのに…。やっぱり、あなたは青騎士!?」


「ほら、この人は青騎士なんだよ!」


最初の少年が再び、高らかに叫んだ。


「青騎士!絶対に、この人が青騎士だよ!わたしの事、知っててくれた!本当の青騎士!」


歯抜け少女が賛同する。


それは伝染していき、俺も記憶してる限りの拷問シーンを語り尽くして、青岸からアオキシを経て青騎士になっていく。


そう、この時、この瞬間から、俺は青騎士になった…。

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