山田の発見
「これですか?」
カズトが見つけた『灰色』は、確かに妖しい雰囲気を醸していた。
「ここから、声が聞こえて、手が伸びてきて、まあ、青岸君だったわけですよ」
「へぇ、これがねぇ…」
果たして、自分の特異性である『道式論』は、この『灰色』の中でも有効なのだろうか。
試してみる価値はあると思った。
「青岸さんは『灰色』の中から、僕に声を掛けたくなってしまう」
「おっ、『道式論』ですか、山田さん?」
「ええ。でも、本当に青岸さんはこの中に?僕の『道式論』を完全に遮断できるわけが無いと思うんですけど」
「おい、山田!」
「あっ…、本当にいるんですね」
それにしても、とは思う。
別に、自分は青岸を格下に見ていたわけではないが、山田と呼び捨てにされると腹が立つ。
「山田ァ、俺はお前の特異性に引っ掛かって声を出してやったわけじゃないぞ!」
まあ、それはそうなのだろう。
自分の『道式論』に操られたなら、操られているという事自体を青岸が認識できるわけがないからだ。
「悔しいだろ、山田ァ?手玉にとってたつもりの俺が、お前に言い放題なんだからな!」
悔しくはない。
対等の相手に言われたら、悔しいかもしれないが。
そこまで考えて、ハッと気付く。
「そうか、青岸。僕は、青岸を見下していたみたいだ」
「うわっ、きっついなあ」
「えっ、何がですか?」
きつい事を言われていたのは、自分の方だ。
それなのに、カズトは何を言いたいのだろうか。
「いやいや、今のは思ってても、言っちゃ駄目なやつでしょ?本心は包み隠してあげなくちゃ」
「あっ、そういう事じゃなくて、ですねぇ。発見を口にしただけで、青岸は別にどうでも良いんですよ」
「あらら、上乗せた」
「覚えてろ、殺してやる!」
何か、誤解を生んでしまったようだったが、まあ、きっと、自分のせいでは無いはずだ…。