カズトの迷い
「ここ、か…」
俺は昨日、青岸が消えた場所に来ていた。
正直な話、あんなにも短期間で青岸が辞めてしまうとは想定外だった。
理由は色々あるのだろうが、その一端として『灰色』と『子供達』の件に俺が青岸を巻き込んでしまったというのは、確実にあるだろう。
まあ、だからこそ、俺は青岸の行動に対し、積極的な反対を示さなかった。
彼がそう決め、ここを諦めるとしたなら、それはそれで仕方がないと思ったのだ。
だが、情報屋という商売柄か、ここを立ち去るまでの青岸を追ってしまった。
そして、彼が急に駆け出し、曲がり角を曲がった先、守衛の老人から聞いた話では、そんなに慌てた人間は来なかったとの事ではあるが、それが正しいのだとすれば、まあ、俺も慌てて走り縋ったわけだから、それが正しいのは確定なのだが、そうだとすれば、彼が消えたのはこの自動販売機の前という事になる。
「何があった?何で、こんな場所で消える…?」
意味が分からない。
そして、もっと意味が分からないのは、青岸が消えたという場所、自動販売機の前に、6階で目にする事が多い『灰色』が僅かにあったという事だ。
「小さいな…。このサイズで、青岸を吸い込んだりしたのか?」
手は伸ばさない。
俺は自分の特異性、『消失』に絶対の自信を持っているし、その自動的に発動するという事に対しては、神への信仰にも等しい信頼度を持ってもいる。
しかし、それでも、そうであっても、自ら、愚かな危険を犯す気はない。
「そろそろ、潮時か…」
もう、組織もこの現場からは手を引くだろう。
犠牲が大きすぎるし、対価の質も良く分からない。
そうなれば、情報屋の俺としても、新たな食い扶持を探す必要が出てくる。
「まあ、それなりに儲けたし、悪くはなかったか」
「ここを抜けると決めたな、カズト!だったら、お前もこっちに来てもらうぞ、アァ!」
青岸の叫び声が『灰色』の中から聞こえた。
そして、同じ場所から手が伸びてくる。
「調子に乗るな、雑魚が。俺の『消失』で消されたいか?」
手が止まる。
そして、逡巡。
やがて、手が引っ込んでいく。
面白い、愉快だ。
まだ、ここには残る価値がある、そんな気がした…。