終わり
その日は結局、最終日であるにも関わらず、カズトにも、山田にも、6階の『灰色』と『子供達』の件に巻き込まされる事もなく、普通に終わってしまった。
ある意味、ちょっとした覚悟を持っていた分、拍子抜けしたのも確かだったが、実際のところ、これ以上の関わり合いを拒否したのは襟櫛だったのだろうし、それをあのカズトや山田が反対もしなかったであろう件から、俺が襟櫛の強さにビビるのは充分であったと言える。
ロッカー室から出る時、もしかしたら、誰かが俺との別れを惜しむかもしれないと思ったが、誰一人として声すらも掛けてくれず、虚しい限りだった。
エレベータ前を通り過ぎ、初日に荷受けした場所を抜け、普通に、何もこの場所に起こす事もなく、何一つとして残す事もなく、俺が去っていくわけだ。
「よくも、このわしを騙してくれおったな、青岸!」
その声を聞いて、俺はギョッとして立ち止まった。
ここで聞こえるはずのない声、この場所にまだ居てそれを発するわけがない奴、聞き覚えのあるブッチデヨの声だった。
声のした方を向いて、だが、何もなくて、俺は困惑する。
その時、唐突に思い出した。
組織からの電話で、言われたはずだ。
月曜日、この建物を見張っていたストラは、送迎バスに乗り込む俺は見たが、ブッチデヨは見なかったと。
俺はその件について、ストラが無能だから見逃したか、ストラを見つけたブッチデヨが上手く姿を隠したか、そういう結論を出した。
だが、しかし、可能性はあるのだ。
ストラが珍しくもまともに仕事をこなしていて、本当にブッチデヨがこの建物から出て来なかった可能性が。
「おいおい…、俺は何を寝惚けてる?ありえない事を並べ立て、幻聴を正当化しようとでもするつもりか…」
「青岸!わしはお前だけが、お前だけ、無事にここから出ていくなど、絶対に認めんぞ!認めんからな、認めん!」
俺は走っていた、自然と『ビルメン』を発動しながら。
しかし、『ビルメン』が見せてくれたのは、最短にして最良の逃走経路ではなく、子供達の残酷な虐待シーンであり、俺は発狂してしまう。
「青岸、お前も来い」
むんずと掴まれ、引っ張りこまれる。
どこに?
そう、知っているさ
灰色の中、そこは灰色、灰色の…