ただの面倒事
『京通』の運用は洒落にならないくらいに俺を酷使した。
山田の『暴く気が無ければ、面倒な作業というだけ』という言葉が思い返され、その上で俺は嘯くのだ。
「暴く気があっても、面倒な作業だろうがよ」
正直、こんな事を続ければ、俺が死んでしまう。
あの『最強』が早々にこの運用から身を引き、観察に重点を置いた理由が分かろうというものだ。
「何か、疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
平然とした様で、カズトが問い掛けてくる。
こいつは面倒事を俺に押し付ける事が出来たわけだから、気分が良いに違いない。
「これ、俺の自由で、バージョンD2にしたら駄目なのか?」
「知らない内なら、D2だろうと、T3だろうと、それこそ、Q4やQ5にしようと自由だけど、重要なのは青岸君が実際に運用できるかどうかだと思うぜ」
確かに、問題はそこだ。
バージョンS1でも、限界を超えかけているのに、D2にしたりしたら、それこそ終わってしまうかもしれない。
「じゃあ、これに関する情報は…?」
「無い。実際、俺もS1止まりなんだ。多少は慣れてるから、D2…、或いはT3くらいには出来るだろうけど、一度で何かを掴めるとはとても思えない。1日に二度もT3が出来るわけないし、結局、調べるにも限界があるさ」
話によれば、カズトは『京通』の運用を何ヶ月もやっているらしい。
その彼ですら情報を掴みかねているという事は、時間を掛けても無駄なのだろう。
そもそも、俺には掛ける時間も無いわけだが。
そして、『最強』がこの現場を一時的に抜けて調査しているという事は、間近に見ている必要すらも無いというわけだ。
だが、今、俺にはこの現場を抜ける事も出来ない。
残念ながら、何かしらの手掛かりを掴んでいるであろう『最強』と違い、俺は何も手掛かりを掴んでいないからだ。
「八方塞がりかよ、クソがっ!」
「おっ、青岸君の出番だよ、『京通』だ」
「またかよ、早ぇよ…」
「まあ、不貞腐れないで行ってきなよ。次は、『京通』の謎が解けるかもよ」
笑っている、嫌な奴だ。
そして、俺はへとへとになるまで、『京通』を運用し続けた…。