京通
火曜の朝、俺は『灰色』と『子供達』の事なんて、自分の中からすっかり無かった事にして、本来の目的に近付いていた。
視線の先には、背丈を遥かに超える長大な列があった。
「やはり、組織の人はそれが何よりも気になりますか?」
不意に声を掛けられて振り向くと、山田が訳知り顔で立っていた。
「まあ、こいつを目当てに来たようなものだからな」
いや、本当はすでに、こいつは目当てでは無い。
三超将軍では無理だったらしいが、『最強』はこれを見ただけで仕組みを理解してしまったと聞く。
だから、俺は今、報告によって、これの正体自体は知ってしまっているのだ。
『京通』と呼ばれているこれは、バージョンS1というシンプルな形になっている。
「バージョンD2が見たいんだけど」
試しに言ってみた。
「それは、無理ですね。実際、僕もここに入って数ヵ月になりますが、バージョンS1以外を見た事が無いんですよ」
知ってる、報告にあった通りだ。
『最強』は幾度か、バージョンD2以降を見た事があるらしい。
しかし、見る事も出来なければ、何も分からない。
「これの運用は今、カズト氏が取り仕切っていますよ。少し前は、僕がやっていたんですけどね」
「俺が運用するように出来ないか?」
「出来ますよ、勿論。まあ、暴く気が無ければ、面倒な作業というだけですからね」
「じゃあ、頼んでくれよ」
「ええ、分かりました」
山田が軽く頷き、カズトの元に歩いていき、暫く話した後で、余裕な笑みを浮かべて戻ってくる。
「オッケーでしたよ。カズト氏が説明して下さるそうですから、聞いてみて下さい」
「分かった、行ってくる」
とにかく、『京通』に携わらなくては話にならない。