試される時
その部署のメンバーが揃った時、俺は軽く後退ってしまった。
何も言われなくても、そして、何も教えられなくても、すぐに理解できた。
全員が全員、特異性を持っていやがる。
朝礼が始まり、今日の予定とやらが話されてる間、俺は全員から向けられる視線が気になって仕方が無かった。
自意識過剰ではなく、本気で危機を覚えていた。
「それから、今日から入ってくれる青岸君だ。分からない事もあるだろうから、みんなで教えてやってくれよ」
急に名前を呼ばれ、俺は完全に動揺しながらも、頭だけは何とか下げておいた。
「じゃあ、今日もよろしく!」
「よろしくお願いします!」
「青岸君、行こうか。最初にやる事はみんな一緒だから」
「は、はい…」
とりあえず、社長やカズトについて歩き回る。
そして、指示された通りに動く。
情けない話だが、自分だけで動いて狙われたくない。
やがて、カズトと2人になった時、彼が笑いながら言った。
「そういや、青岸君は単独行動のスペシャリストだったはずなのに、組織から新たな奴が入ったみたいだね?」
ブッチデヨの話題が出た。
こうなってしまって、ただでさえ、俺を馬鹿にしていたであろうカズトが、さらに馬鹿にしているのが癪だった。
だいたい、俺は状況にビビっていても、カズト自体には何の恐れも抱いていないのだ。
こいつに、こいつ如きに、虚仮にされたくは無かった。
「おい…、あんまり舐めた態度を取るなよな」
「おぉ、青岸君、お怒りだ、怖いね」
静かに、『ビルメン』を発動させる。
だが、その瞬間、いつもの感覚がなく、『ビルメン』が上手く発動できなかった事が分かる。
「ま、まさか、お前まで…?」
「この部署で特異性を持ってない奴なんていないよ。だからさ、青岸君は無駄に警戒してるみたいだけど、安心したら良い。ここでは、特異性を持ってない方が逆に目立つ」
「それで、お前の特異性は何だ?俺の特異性にまで、どうやって影響を及ぼしやがった…」
「言うわけないじゃん。青岸君は馬鹿なの?」
口が軽いように思わせておいて、金になる情報は口にしない。
「幾ら欲しい?」
「売り物には出来ないけど、教えて上げるよ。結局、同じだからね。俺の特異性は、『消失』だ。もっと具体的に言えば、俺に対する敵意の手段を消失する。だから、仮に青岸君がここを調べる為だけに特異性を使うなら、俺の『消失』は働かない」
「防御特化、という事だな?」
「そうだね、攻撃手段はない」
「つまり、俺はお前を、…いや、誰もお前を攻撃できないわけか」
「そう、『最強』であっても、『破天荒快男児』ジョージであっても」
カズトがこの現場で情報屋として生き残ってきた理由でもあるのだろう。
「最初に質問した時、何で答えなかった?」
意味が分からなかったから、素直に聞いた。
「どうしても聞きたい情報がある時、青岸君が金をちゃんと出せる人間かどうかを確かめておきたかったんだよ」
「そこは、クリアできたわけか…」
「そうだね。じゃあ、早速、取引を始めよう。どうやら、青岸君には時間があまり無いみたいだからね」
何でもお見通しだ、本当に嫌になる。
だが、だからこそ、情報は信頼に足るのだ。
最初に聞くべき事、俺はその選択を誤りたくなかった…。